年次有給休暇は、原則入社後6ヶ月経過後に付与されるものであるため、試用期間中や入社間もない従業員は、休暇を取りたいタイミングでまだ有休を持っていないというケースが考えられます。

こうした従業員から、「有休を前借りしたい」と申し出があった場合、会社としてはどう応じるべきでしょうか?また、有休を前貸しで与えた従業員が、本来の付与日を待たずに退職してしまったら、その有休を精算させることはできるのでしょうか?

この記事では、有給休暇の前借りについて、法的な解釈や対策をわかりやすく解説します。

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有給休暇の前借りとは|試用期間中や新入社員からの申し出が一般的

有給休暇は入社から6か月以上が経過し、全労働日の8割以上を出勤した労働者に対し、付与される法定休暇です。正社員だけでなく、パート・アルバイト・有期契約社員など、非正規社員も要件を満たせば付与されます。

有給休暇は入社から6か月が経過しないと付与されないため、試用期間中や新入社員で入社後6ヶ月経過していない従業員は有休を使いたくても使えません。このため、本来の付与日より前に有休を使う代わりに、後から差し引いてほしいという申し出を受けるケースがあります。

また、既に付与されていた有給休暇を年度中に使い切ってしまい、翌年度に付与される有給休暇を前借したいとの要望もあります。

こうした場合、会社としてはどのように対処するのが適切なのでしょうか?

有給休暇の前借りは違法か?

法律上は、有休の前借りについて何も規定しておらず、また該当する行政通達も存在しないため、前借りに応じること自体は違法とは言えません。前借りに応じることは、直接労働者に不利益をもたらすものではなく、むしろ便宜を図っていると見ることもできます。

ただし、就業規則等で有休の前借りについて認める定めをしていない限り、申し出に対して会社が応じる義務はありません。

有給休暇の前借りの問題点

有給休暇の前借りは違法性はないものの、以下のような問題点があります。

  • 本来の有休付与日よりも前倒しで与えていることになるため、以降の基準日がズレてしまい、管理が煩雑になる
  • 本来の有休付与日が到来する前に退職してしまうと、会社が一方的に損をする
  • 前例を作ることで、同様の申し出が増えて収拾がつかなくなる

入社日から6か月が経過していない時点で、有給休暇を付与するとその日が基準日となってしまうため、同時季に入社した他の従業員などと基準日がズレて管理が煩雑になります。

2019年4月からは、年10日以上有給休暇を付与する従業員に対し、5日以上の取得が義務付けられています。基準日が複数あることで取得漏れが発生するリスクが高くなるため、注意が必要です。

また、「前借り」ということは、後からその分を差し引いて清算することを前提にしている訳ですが、その前に早期退職されてしまうと回収できないまま、会社が一方的に損をする結果となる恐れがあります。

さらに、一人でも前借りを認めると、他の従業員から「自分も」と同様の申し出が多発する可能性があり、対応する管理者や人事労務担当者の負担が増大します。

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有給休暇の前借りに対する会社の対応策

「法定を上回る日数を付与しているか」「分割付与との関係はどうなるのか」などによって、会社側が取りうる対応が異なり、専門家の間でも見解が分かれています。

特別休暇を設ける

有休の前借りの典型的なケースとしては、入社初年度の夏季休暇として取得したいというケースが考えられます。

そこで、会社の年間カレンダーなどで、あらかじめ全従業員対象の夏季休暇を設けておくという方法があります。

また、リフレッシュ休暇やバースデー休暇など、最初から自由に使える特別休暇を導入するのも有効です。利用目的は限定されますが、リフレッシュ休暇などであれば、夏季休暇としても利用しやすいでしょう。

法定を上回る日数の有休を付与していた場合

基本的には、フルタイム従業員の場合は初年度の付与日数は10日となりますが、これを上回る日数を独自に付与している会社もあります。

たとえば、初年度に12日付与している場合は、この上乗せして付与した2日分については、前借りに応じても問題はありません。

つまり、かりに1日だけ前借りがあった場合は、本来の付与日に与えられる日数は前借り分の1日を差し引いて、11日となるわけです。

法定どおりの日数を付与していた場合

付与日数が法定どおりである場合は、特に行政による判断が示されていないことから、法解釈をめぐって専門家の間でも以下のように見解が分かれています。

  • A. 前借りに応じたとしても、本来の付与日にその日数分を差し引くことは許されず、法定日数分を付与する必要がある
  • B. 有休の分割付与が認められることから考えて、前倒しで付与した日数分は後から差し引くことが可能である

A.の立場では、従業員の便宜を図って前借りを認めても、結局は法定分の日数を改めて付与する必要があり、前借りした従業員が一方的に優遇される結果となるため、前借りに応じるべきではないという結論になります。

B.の立場では、前借りも実質的には分割付与と変わらず、本来の付与日に法定日数分が付与されていなくても問題はないため、前借りに応じても差し支えないという結論になります。

こうした問題は、個別に管轄の労働基準監督署に問い合わせて判断を仰ぐのが、トラブル防止の観点からも無難と言えます。

有給休暇の分割付与とは

入社初年度の有給休暇について、一部を本来の付与日よりも前倒しで付与し、本来の付与日に残りの日数を付与する制度です。従業員にとってはプライベートの予定が立てやすくなる一方、企業側は管理が複雑化する恐れがあります。

法律で規定されている制度ではないものの、行政通達(平成6.1.4基発1号)によって認められています。

たとえば、4/1入社の従業員(フルタイム正社員)に対し、本来10/1に10日付与すべきところ、5/1に5日付与し、10/1に残りの5日を付与するというパターンが考えられます。

ただし、分割付与した場合は、翌年度以降の付与基準日は本来の付与日である10/1ではなく、最初に与えた日(上記例では5/1)になる点に注意が必要です。また、有給休暇管理簿には、本来の付与日と前倒しした付与日を両方記載しておきましょう。

年度またぎで有給休暇の前借り申請があったら?

労働基準法に基づいた日数の有給休暇を付与されている従業員が、年度内の有給休暇を全て消化したケースです。この場合、翌年度の有休を前借りしたいという申請があったとしても、前借りは認められません。

分割付与の場合と異なり、翌年度の付与日数から前借りした分を差し引く行為は、明らかに違法となります。こうした法的根拠を従業員に説明し、年度またぎの前借りは厳禁である旨を周知しておきましょう。

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前借りしたまま、退職したらどうなる?

有給休暇の前借りを認めた従業員が、本来の付与日である6ヶ月を待たずに退職した場合、取得日に支払った賃金は返還させることができるのでしょうか?

有休取得日と退職日が時期的に近接している(2~3ヶ月以内)のであれば、調整的相殺として認められる余地はあります。ただし、トラブルになる可能性が高いと言えます。

対策としては、前借り時点で早期退職時の相殺について合意文書を交わしておくか、労働基準法24条の賃金全額払いの原則の例外として、労使協定に定めておくことで、精算可能となります。

有給休暇の前借りは、オススメできない

前借りは、法的に認められたとしても、日数の差し引きや早期退職時の賃金精算に関して、取り扱いがグレーな部分が多く、トラブルに発展する可能性が高いと言えます。

法定以上の付与日数を与えている会社以外は、特別休暇を設けたり、あくまでも欠勤として処理したりするほうが無難でしょう。どうしても認める場合は、分割付与によることになりますが、翌年度以降の付与基準日が変わってくるため、有休管理が煩雑になるデメリットもあります。

有休管理機能が充実している勤怠管理システムを導入することで、各従業員ごとに付与基準日が異なっていても、適切に付与タイミングや取得状況を管理することができます。

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