通勤手当は、従業員の経済的負担を軽減し、働きやすい環境を提供する福利厚生の一環として、多くの企業で採用されています。しかし、その通勤手当には一定額まで所得税が非課税となる「非課税限度額」が設けられていることをご存じの方は、少ないかもしれません。
通勤手当が非課税となる条件を正確に把握しなかったことで、従業員に余計な課税負担が発生する可能性があります。さらに、テレワークや在宅勤務の普及により、通勤手当の支給基準が見直される中、従業員ごとの勤務形態に合わせた柔軟な運用が求められています。
この記事では、通勤手当の基本的な定義や目的から、交通手段別の非課税限度額の仕組み、導入のメリット・デメリット、運用の注意点まで、わかりやすく解説します。また、実務上のよく寄せられる質問に対してもまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
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通勤手当とは
通勤手当は、従業員が職場に通勤するために必要な交通費を補助するために企業が支給する福利厚生としての手当です。従業員の経済的負担を軽減し、安定した労働力の確保を目的として多くの企業で導入されています。
通勤手当の定義と目的
通勤手当は、法律で義務付けられている手当ではなく、支給の有無や金額、算出方法などは、各企業の裁量に委ねられています。つまり、通勤手当は企業が任意で設ける福利厚生、いわゆる法定外福利厚生の一環といえます。
その主な目的は、従業員の経済的負担を軽減し、人材の確保・定着を図ること、そして従業員のモチベーションを向上させることです。
近年はフレックス勤務やテレワークが増える中で、通勤頻度の変化による手当の見直しも進んでいます。企業には、こうした変化を反映した柔軟な運用が求められています。
交通費との違い
通勤手当は、従業員の自宅から職場までの通勤費用を補助するために支給されるもので、給与の一部として扱われます。一方、交通費は、営業活動や出張など業務遂行に伴う移動費用を指し、経費として計上されます。
通勤手当 | 交通費 | |
---|---|---|
支給対象 | 自宅から職場までの通勤 | 業務のための移動 |
支給方法 | 固定額支給、定期券など | 実費精算 |
課税対象 | 一定金額までは非課税 | 原則全額非課税 |
交通費は業務のために移動する際に発生する費用を指し、例えば営業職が顧客先を訪問する際の電車代やバス代、出張時の新幹線代などが該当します。交通費は、業務上必要な経費として、原則として全額が経費計上され、非課税となります。
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通勤手当は課税対象?非課税?
通勤手当は、原則として給与所得として課税対象となりますが、非課税限度額と呼ばれる一定額までは非課税となる制度が設けられています。所得税法第9条および所得税施行令第20条の2では、通勤のために必要な支出に充てるものとして、合理的範囲内で非課税となる限度額が定められています。
この限度額は、通勤距離や交通手段によって異なります。企業は、法令に基づいた非課税限度額を正しく理解することで、従業員の経済的負担を軽減しつつ、税務リスクを回避できます。
通勤手当の非課税限度額とは
非課税限度額は、通勤手当のうち所得税が課されない金額の上限のことです。この限度額は、通勤方法や通勤距離によって異なります。
公共交通機関を利用する場合は月額15万円、自家用車通勤の場合は距離に応じて片道2km以上で最大31,600円までが非課税です。公共交通機関と自家用車を併用する場合は、合計で月額15万円まで非課税となります。
通勤方法 | 非課税限度額 |
---|---|
公共交通機関 | 月額15万円まで |
自家用車通勤 | 距離に応じて最大31,600円 |
公共交通機関+自家用車 | 合計月額15万円まで |
公共交通機関を利用する場合
公共交通機関を利用する場合の通勤手当の非課税限度額は、1ヶ月あたり15万円です。ただし、最も経済的かつ合理的な経路および方法での通勤の場合に限られます。
「最も経済的」とは、通常最も運賃が安い経路が該当します。また「最も合理的」とは、所要時間、乗り換え回数、運行頻度などを総合的に考慮して判断されます。
新幹線を利用する場合も、非課税の対象となるのは「一般の通勤者が通常必要とする通勤経路及び方法による運賃等の額」(経済的かつ合理的な方法)です。新幹線料金が加算された定期券代も非課税限度額に含まれますが、グリーン料金は含まれません。
マイカー通勤の場合
自家用車で通勤する場合は、片道距離に応じて非課税限度額が設定されます。マイカーや自転車で通勤する場合の非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて以下のように定められています。
片道の通勤距離 | 1ヶ月あたりの非課税限度額 |
---|---|
2km未満 | 全額課税 |
2km以上10km未満 | 4,200円 |
10km以上15km未満 | 7,100円 |
15km以上25km未満 | 12,900円 |
25km以上35km未満 | 18,700円 |
35km以上45km未満 | 24,400円 |
45km以上55km未満 | 28,000円 |
55km以上 | 31,600円 |
通勤距離は、自宅から勤務先までの最短距離ではなく、実際に通勤している合理的な経路の距離で判断されます。ガソリン代の高騰などの事情があっても、上記の表の限度額が優先されます。
参考:No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁
公共交通機関とマイカー通勤を併用する場合
公共交通機関と自家用車を併用した場合の非課税限度額は、公共交通機関を利用した場合の1ヶ月あたりの通勤定期券などの金額と、マイカーや自転車で通勤する距離に応じた非課税限度額の合計額(最高で月額15万円)となります。
非課税限度額を超えた場合
支給された通勤手当が非課税限度額を超えた場合、超過した金額については給与所得として課税対象となります。
たとえば、マイカー通勤で片道20kmの従業員に、月額15,000円の通勤手当を支給している場合、非課税限度額は12,900円なので、差額の2,100円が課税対象となります。
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通勤手当のメリット・デメリット
通勤手当を支給する際は、メリット・デメリットを理解し、自社の経営状況や従業員のニーズを十分に考慮したうえで、適切な制度を設計・運用することが求められます。。
通勤手当のメリット
通勤手当を支給するメリットには、以下のようなものがあります。
- 従業員満足度の向上
- 人材の確保・定着
- 企業イメージアップ
従業員満足度の向上
通勤にかかる経済的負担を軽減することで、従業員の可処分所得が増加し、生活の質の維持に繋がります。従業員が通勤費用を気にせずに仕事に集中できる環境を整えることは、モチベーションやエンゲージメントの向上にも寄与します。
人材の確保・定着
通勤手当は福利厚生の一部として、求職者が企業を選ぶ際の重要な判断材料となります。通勤手当を支給することで、人材獲得競争において優位に立つことができ、入社後の定着率向上も期待できます。
企業イメージアップ
通勤手当を支給することは、従業員の生活を支援する企業姿勢を示すことになり、企業の社会的イメージ向上に繋がります。企業イメージアップは、従業員だけでなく取引先や顧客に対しても有効に作用します。
通勤手当のデメリット
一方で、通勤手当には以下のようなデメリットも考えられます。
- 運用コストの増加
- 不公平感が生まれるリスク
- 管理業務の負担増
運用コストの増加
通勤手当は、基本給や賞与とは別に発生する人件費です。従業員数が多い企業や、通勤距離が長い従業員が多い企業ほど、通勤手当の支給総額は大きくなり、経営を圧迫する要因となる可能性があります。
不公平感が生まれるリスク
通勤距離や通勤手段によって支給額が異なるため、従業員間に不公平感が生じる可能性があります。特に、テレワークの普及により、出社する従業員としない従業員の間に、新たな不公平感が生じるリスクも考えられます。
管理業務の負担増
通勤手当を支給するためには、従業員の通勤経路や距離の確認、非課税限度額の計算、給与計算への反映など、煩雑な管理業務が発生します。これらの業務は、人事・労務担当者の負担を増加させます。
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通勤手当を支給する際の注意点
通勤手当を支給する際には、非課税限度額の範囲の他にも、社会保険料の計算基準、テレワークにおける運用など、さまざまな要素を考慮する必要があります。
通勤手当は社会保険料の計算に含める
通勤手当は非課税範囲内で支給された場合でも、原則として社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の計算の基礎となる「報酬」に含める必要があります。
社会保険料は、被保険者の報酬を基に計算される標準報酬月額に基づいて算出されます。「報酬」とは「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもの」と定義されており、通勤手当もこの報酬に含まれます。
テレワーク・在宅勤務の場合の通勤手当
テレワークや在宅勤務の従業員がいる場合、それぞれの通勤実態に応じて、通勤手当の支給方法を見直す必要があります。具体的には、実費精算や出社日数に応じた支給、テレワーク手当の新設などの方法が考えられます。
テレワークや在宅勤務では、従業員がオフィスに出社する頻度が減る、あるいは全く出社しなくなるため、従来の通勤手当の考え方では実態に合わなくなります。例えば、1週間に1~2回程度の出社が発生する場合、定期券代ではなく回数券の購入費用を支給するケースが考えられます。
通勤手当を給与に含めて支給すると課税対象
通勤手当を給与に含めて支給する場合、その全額が課税対象となります。これは、給与明細上で通勤手当との区分ができないため、すべてが労働の対価としての給与所得とみなされるためです。
通勤手当を給与に含めて支給することは、非課税のメリットが失われるため、特別な事情がない限りは給与とは別に支給することをお勧めします。
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通勤手当についてよくある質問
通勤手当について、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。
- Q通勤手当は残業代の計算に含める?
- A
通勤手当は、基本的に残業代の計算基礎には含める必要はありません。労働基準法第37条において、割増賃金の基礎となる賃金には、通勤手当や家族手当などの手当を含めないとされています。
ただし、通勤手段や通勤距離によらず全従業員に一定額が支給されている場合は、個人的事情に基づいて支給されている手当ではなく、労働と直接的な関係がある手当とみなされるため、残業代の計算に含めなくてはなりません。
- Q通勤手当は必ず支給しなければならない?
- A
通勤手当の支給は法律上の義務ではなく、企業が自由に決定できる福利厚生制度です。ただし、就業規則や労働契約で通勤手当を支給する旨が定められている場合、その規定に基づき支給が義務となります。
通勤手当は非課税限度額に注意して運用
通勤手当の適切な運用は、従業員の経済的負担を軽減し、企業の人事労務管理において重要な役割を果たします。非課税限度額の範囲や社会保険料への影響、テレワーク時の支給基準など、通勤手当にまつわるポイントは多岐にわたります。
企業が通勤手当を適切に運用するためには、労務管理全体の見直しも重要です。テレワークやフレックス勤務の普及に伴い、柔軟な支給方法や運用ルールを設けることで、従業員の働きやすさをさらに向上させることが可能です。
こうした労務管理を効率化するためには、勤怠管理システムの導入が有効です。最新の勤怠管理システムは、テレワークや複雑な勤務形態にも対応した機能を備えており、従業員と企業双方にとって利便性の高い運用が可能です。
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