給与明細は毎月発行されるものだからこそ、つい「その場で確認して終わり」にしがちです。しかし実際には、労働基準法や所得税法など複数の法令に関わる重要書類であり、企業にも個人にも一定期間の保管が求められます。

特に、税務調査・監査・トラブル時の証拠提出・確定申告・退職後の手続きなど、給与明細が必要となる場面は年々増加しています。

  • 「給与明細の保管期間は何年?」
  • 「会社と個人で対応は違う?」
  • 「電子化やクラウドで保存してもいいの?」

こうした疑問を解決せずに放置すると、不要なリスクやトラブルに直面する可能性も。

本記事では、給与明細の正しい保管期間、5年・7年保存が必要な書類、紙・PDF・クラウド別の保管方法などをわかりやすく解説します。

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給与明細とは

給与明細とは、企業が従業員に対し給与を支給する際に交付が義務付けられている、支給額や控除額、勤怠の実績といった内訳を明記した非常に重要な書類です。

所得税法では、給与を支払うすべての企業に対し、支払額や源泉徴収税額などを記載した支払明細書を従業員に交付することが定められており、違反した場合には罰則も設けられています。

近年、業務効率化の観点から、給与明細を紙ではなくPDFなどの電子データで交付する電子化も広く普及していますが、これには事前に従業員一人ひとりから個別の同意を得ることが必要です。

このように給与明細は、所得税法で交付が義務付けられた公的な性質を持つ書類です。記載された内容は、従業員との賃金に関する取り決めの証明であり、信頼関係の礎となります。労務管理の担当者は、その重要性を深く理解し、毎月正確な作成と確実な交付を徹底する必要があるのです。

給与明細と法定三帳簿との関係

給与明細と、「法定三帳簿」と呼ばれる「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」は、それぞれ根拠となる法律や目的が異なります。しかし、記載される情報には多くの共通点があり、実務上は相互に連携させながら一体として管理すべき、密接な関係にある書類群です。

両者の最も大きな違いは、その根拠法と役割にあります。

書類名根拠となる法律主な役割・目的
給与明細所得税法従業員への支払内容の通知
法定三帳簿労働基準法企業の労務管理の記録・証明、行政の監督

これらの書類は、実務上、以下のような情報の流れで密接に繋がっています。

  • 出勤簿(タイムカードなど):日々の労働時間を記録し、すべての計算の出発点となります。
  • 賃金台帳:出勤簿の記録を基に、残業代を含む賃金額や控除額などを従業員ごとに記録します。
  • 給与明細:賃金台帳の情報を基に、従業員個人に通知するために内訳を分かりやすくまとめたものです。

多くの給与計算システムでは、勤怠データを入力すれば賃金台帳と給与明細が同時に作成されるため、両者の内容はほぼ一致します。この情報の連携が正確でない場合、未払い残業代の発生といったトラブルに繋がるリスクがあるため注意が必要です。

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給与明細の保管期間

企業には、給与明細そのものではなく、その大元となる「賃金台帳」を保管する法的な義務があります。この保管期間は労働基準法によって「5年間」と定められていますが、法改正の経過措置として、当面の間は「3年間」の保管が認められています。

この規定は、2020年4月の法改正で賃金請求権の時効が延長されたことに伴うものです。企業の負担を考慮した経過措置があるものの、将来的な完全移行や後述する労務トラブルのリスクを回避するため、原則である「5年間」の保管体制を構築することを強く推奨します。

なお、この期間の起算日は「その従業員の最後の賃金を支払った日」となります。また、これらの書類は、厚生労働省の定める要件を満たせばスキャンした電子データでの保存も認められています。

給与明細の保管が必要な理由

企業が賃金台帳などの書類を適切に保管する理由は、大きく2つあります。第一に「法律で定められた義務を果たすため(コンプライアンス遵守)」、第二に「万が一の労務トラブルから企業を守るため」です。

労働基準監督署の調査では、法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)が正しく管理されているかが厳しくチェックされ、不備があれば罰金の対象となる可能性があります。

また、退職した従業員から「未払い残業代」などを請求された際に、企業側が適正な労働時間の管理と賃金の支払いを証明する客観的な証拠となるのが、出勤簿や賃金台帳です。賃金請求権の時効に合わせてこれらの証拠を保管しておくことが、企業にとっての強力なリスクヘッジとなります。

加えて、従業員からの問い合わせにスムーズに対応できれば信頼関係の維持に繋がり、各種助成金の申請時に必要となることもあります。賃金台帳などの保管は、企業を法的なリスクから守り、円滑な企業経営を支える、攻めと守りを兼ね備えた重要な業務なのです。

5年間の保存が必要な書類

2020年4月の労働基準法改正により、企業が「5年間」(当面は3年間)の保存を義務付けられているのは、「法定三帳簿」をはじめとする労働関係の重要な書類です。具体的には、主に以下のものが該当します。

  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 出勤簿、タイムカードなどの勤怠記録
  • 雇入れに関する書類(雇用契約書など)
  • 解雇に関する書類(解雇予告通知書など)
  • 災害補償に関する書類
  • 労使協定書など、その他労働関係の重要書類

これらの書類は、それぞれ保管期間のカウントを始める日(起算日)が異なるため、管理上の注意が必要です。

書類名保存期間起算日
賃金台帳5年 (当面3年)最後の賃金について記入した日
労働者名簿5年 (当面3年)労働者の死亡、退職又は解雇の日
出勤簿など5年 (当面3年)最後の出勤日(賃金支払日が遅い場合は支払日)

7年間の保存が必要な書類

労務・経理関連の書類の中には、労働基準法ではなく、主に所得税法などの税法の規定によって「7年間」という、より長期間の保存が義務付けられているものがあります。代表的なものは以下の通りです。

  • 源泉徴収簿
  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  • 会計帳簿および取引に関する証憑書類(請求書、領収書など)

ここで労務管理上、特に注意すべきは、多くの企業で「賃金台帳」が「源泉徴徴収簿」を兼ねて運用されている実態です。この場合、その書類は労働基準法上の5年(当面3年)ではなく、税法上の7年間の保管が必要となります。

保管期間が異なる法律の要件を個別に管理するのは煩雑で、ミスの原因にもなりかねません。したがって最も安全かつ効率的な対応は、賃金台帳をはじめとする重要書類を、最も長い「7年間」を基準に一元管理する社内ルールを設けることです。

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給与明細の保管方法

給与明細の元となる「賃金台帳」などの法定三帳簿の保管方法は、伝統的な紙媒体に限定されません。法律で定められた要件を満たせば、スキャンしたPDFやクラウドシステムを利用した電子データでの保管が認められており、企業は自社の状況に合わせて最適な方法を選択できます。

電子データによる保管の根拠は、主に「電子帳簿保存法」にあります。また、厚生労働省は労働基準法上の書類を電子保管する際に、必要に応じて明瞭に表示・印刷できる「見読性」、情報を速やかに検索できる「検索性」、データの改ざんや消去を防ぐ「完全性」の3つの要件を満たすことを求めています。

どの方法を選択した場合でも、労働基準法などで定められた保管期間(5年または7年)を遵守する必要があることに変わりはありません。重要なのは媒体そのものではなく、選択した方法が法律の要件を確実に満たし、長期にわたって安全かつ効率的に管理できる体制を構築することです。

紙媒体で保管する

紙媒体での書類保管は、特別なシステム投資が不要で直感的に理解しやすい反面、物理的なスペースの確保、検索性の低さ、情報漏洩や劣化・紛失のリスクといった重大な課題を抱えています。

保管すべき書類は年々膨大な量になり、キャビネットの購入費用やオフィススペースの賃料は無視できないコストとなります。

また、過去の書類が必要になった際、ファイルの中から探し出す作業は多大な時間と労力を要します。さらに、火災や水害といった災害時には、すべての書類が一瞬で失われる可能性も否定できません。

どうしても紙で保管する場合は、施錠可能かつ耐火性を備えたキャビネットを使用し、明確な基準でファイリングするといった厳格な運用ルールが不可欠です。

しかし、これらの対策も人的な手間を増やす要因となります。長期的には、スペースや人件費といった目に見えないコストを増大させ、重大なリスクを内包する方法であり、電子化への移行が推奨されます。

スキャンしてPDF化する

紙の書類をスキャンしてPDFなどの電子データに変換する方法は、ペーパーレス化の第一歩として有効です。物理的な保管スペースを大幅に削減できますが、電子帳簿保存法の「スキャナ保存制度」が定める要件を遵守した厳格な運用体制を構築しなければ、法的に認められた保管とはなりません。

この制度を利用するには、タイムスタンプの付与、一定水準以上の解像度での読み取り、日付・金額・取引先などで検索できる機能の確保など、複数の要件を満たす必要があります。要件を満たさない単なるPDFファイルは、税法上の正式な書類として認められない可能性があるため注意が必要です。

自社でスキャン保存を行う場合、誰が、いつ、どのようなファイル名でスキャンし、どこに保存するかといった業務フローを明確に定め、データのバックアップを徹底する必要があります。

クラウドに電子データとして保管する

給与計算や勤怠管理に対応したクラウドシステムを利用することは、労務関連書類の保管方法として最も先進的かつ推奨される選択肢です。法律が求める要件を満たしながら、高レベルの業務効率、セキュリティ、検索性を実現します。

信頼できるクラウドシステムは電子帳簿保存法の要件を満たすよう設計されており、特にJIIMA(日本文書情報マネジメント協会)認証の製品は、第三者機関によって法令への適合性が確認されているため安心です。

システムがタイムスタンプ付与や履歴管理を自動で行い、ベンダーが高水準のセキュリティ環境を提供するため、担当者の負担を大幅に軽減できます。

給与計算から給与明細の電子交付、賃金台帳の作成・保管までが一つのシステム上で完結するため、書類を探す手間はゼロになります。月額利用料は発生しますが、印刷・郵送コストや人件費といったトータルコストを考慮すれば、多くの場合、経済的合理性が高いと言えます。

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給与明細の保管についてよくある質問

給与明細の保管について、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。

Q
会社に給与明細の保管義務はある?
A

厳密に言えば、企業に法律で直接義務付けられているのは、「給与明細」そのものの保管ではなく、その大元となる「賃金台帳」の作成と保管です。

この違いは、給与明細が所得税法に基づき従業員への「交付義務」を定めるものであるのに対し、賃金台帳は労働基準法に基づき企業の公式記録として「作成・保管義務」を定めるという、法律の目的の違いに由来します。労働基準監督署の調査などで提出を求められるのも、この「賃金台帳」です。

ただし、現代の給与計算システムでは、賃金台帳と給与明細のデータが同時に作成・保存されるのが一般的です。結果的に給与明細のデータも保管しておくことで、従業員からの再発行依頼などにもスムーズに対応でき、円滑な業務運営に繋がります。

Q
退職した従業員の給与明細はいつまで保管すべきか?
A

退職した従業員に関しても、企業は給与明細の元データである「賃金台帳」や「労働者名簿」などを、法律で定められた期間(5年または7年)、適切に保管し続けなければなりません。保管期間のカウントは、従業員の退職日や最後の賃金支払日から開始されます。

労働基準法では、賃金台帳の起算日を「最後の賃金を記入した日」から、労働者名簿は「退職、解雇、または死亡した日」からと定めています。したがって、従業員が会社を辞めたからといって、即座に書類を破棄することは法律で固く禁じられています。

この保管義務が重要なのは、退職後であっても未払い残業代の請求といった労務トラブルが発生する可能性があるためです。請求の時効(原則5年)に合わせて企業が賃金台帳などの客観的な証拠を保管しておくことは、自社を守るための重要なリスク管理となります。

まとめ

従業員の給与明細や、その根拠となる賃金台帳といった労務関連書類の適切な管理は、すべての企業に課せられた法律上の義務であり、健全な経営の根幹をなす非常に重要な業務です。本記事では、その基本的なルールと実践的な管理方法について解説してきました。

これらの書類を長期間保管する理由は、単に法律で定められているからだけではありません。労働基準監督署の調査に適切に対応するというコンプライアンス上の側面に加え、「未払い残業代」などの労務トラブルが発生した際に自社を守る、という重大なリスク管理の側面があるのです。

給与明細保管の課題を解決し、最も安全かつ効率的な方法として推奨されるのが、「クラウド型の勤怠管理・給与計算システム」の活用です。信頼できるシステムは、電子帳簿保存法の要件に準拠しており、法改正にも自動でアップデート対応します。

給与計算から賃金台帳の作成・保管、給与明細の電子交付までが自動化されるため、担当者の業務負担を劇的に軽減し、ヒューマンエラーを防ぎます。

適切な勤怠・給与情報の管理と、その根拠となる書類の保管は、もはや手間のかかる守りの業務ではありません。これからの時代、それは企業の生産性を高め、リスクを最小化する攻めの経営戦略の一部です。

自社に最適な勤怠管理・給与計算システムを導入することが、これらすべての課題を解決し、未来の安心を手に入れるための最も確実な一歩となります。

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