従業員の規律違反や問題行動に対して、会社は様々な懲戒処分を科すことがあります。その中の一つに「減給」処分があります。ただ、制裁としての減給は、労働基準法において上限額が設定されており、決して「重い処分」とは言えません。
この記事では、減給の基本的なルールや適用できる場面、例外的に上限の適用なしに減給できるケースについて、わかりやすく解説します。
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減給処分とは
会社は、就業規則等に定めることを条件に、規律違反や不正行為を行った従業員への懲戒権の行使として、懲戒処分を科すことができます。
減給は、この懲戒処分の一種であり、毎月の給与から一定額を減額する処分を指します。
詳しくは後述しますが、遅刻・早退・欠勤も対して、労働のなかった時間分の賃金を減じる「賃金控除」とは別の行為であるため、混同しないようにしましょう。
「減給」はどのくらい重い処分?|ほかの懲戒処分について
懲戒処分の種類や内容については、法に規定がなく会社が任意に定めることができますが、主に以下の7種類とされます。
- 戒告・訓告
- 譴責
- 減給
- 出勤停止
- 降格
- 諭旨解雇
- 懲戒解雇
減給は、「戒告・訓告」「譴責」に次ぐ処分という位置づけです。戒告・訓告や譴責が、従業員に直接的な経済的損失が及ばないのに対して、減給は具体的に給与の減額という経済的損失が発生します。
一般的には、既に戒告や譴責処分を受けたにも関わらず改善が見られない場合や、遅刻や無断欠勤が常習化している場合に適用されることが多くなっています。
減給処分の基本的なルール|上限10分の1とは
労働基準法では、減給の額の上限について定められており、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされています。
(制裁規定の制限)
労働基準法第91条|法令検索 e-Gov
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
処分対象となった行為に対して認められる減給は1回のみで、同じ行為に対して複数日に渡って減給し続けることはできません。
なお、企業の不祥事で「役員報酬3ヶ月カット」などの処分を目にすることがあり、上記規定と矛盾しているように映りますが、役員は労働者ではなく役員報酬は賃金ではないため、この原則は適用されないということになります。
減給の実効性は薄い|具体的ケースで計算
減給処分で差し引く額を決めるには、平均賃金を算出する必要があります。平均賃金は、減給処分の意思を伝えた日(毎月の賃金締日がある場合は、締日)以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金総額を、その期間の総歴日数で割って求めます。
なお、日給制・時給制ので働く従業員の平均賃金は、上記計算だと低く算出される場合があるため、「算定期間中の賃金総額 ÷ 期間中の実労働日数 × 60%」を「最低保障額」とし、上記で求めた金額と比較して高い方の額を平均賃金とします。
たとえば、平均賃金が10,000円、月給が30万円である従業員について、無断欠勤に対して減給処分を行う場合、一度の無断欠勤で減給できる額は「平均賃金1日分の半額まで」つまり5,000円までとなります。
また、無断欠勤を繰り返し、その都度減給処分を行う場合でも、当月内(一賃金支払期)に減額できるのは「賃金総額の10分の1まで」つまり3万円(6回分)までとなります。
このように、実際に減給の制裁として給与から減額できる金額は、ある程度限定的であると言えます。
減給処分と欠勤控除はどう違う?
欠勤控除とは、本来労働義務のある日や時間帯に、遅刻・早退・欠勤により労務の提供がなかった場合、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、その時間分の賃金を差し引くことです。
欠勤控除は労働契約に基づく給与計算処理に過ぎず、懲戒処分には該当しないため、控除する額に上限などはありません。ただし当然、該当時間分を超える額の控除は認められません。
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より実効性のある減給方法|上限が適用されないケース
より悪質な規律違反などに対しては、上限額が定められている「減給の制裁」では実効性に乏しいと感じる場面も出てきます。
そこで、同じ「賃金を減額する」という効果が発生する事項でも、上限が適用されないケースがありますので、以下で詳しく解説します。
労使合意による減給
「賃金に対する成果・能力不足」や「経営悪化」などを理由に、従業員と合意の上で給与を引き下げる場合は、減給の制裁に該当しません。ただし、従業員にとっては明らかに不利益な契約内容の変更となるため、客観的な資料の提示や十分な情報提供、合理的な理由が必要です。
また、減給後の賃金が最低賃金を下回らないよう注意が必要です。
出勤停止に伴う減給
「出勤停止」は、一定期間出勤を禁じた上で、その期間の賃金を無給とする懲戒処分で、一般的には減給よりも重い処分が必要である場合に適用されます。
出勤停止期間は、対象行為の重大さに応じて判断することになりますが、かりに出勤停止期間が1ヶ月に及び、その間は丸ごと無給となったとしても、あくまでも出勤停止処分の結果としての減給であるため、「減給の制裁」の上限規制は及ばないということになります。
降格に伴う減給
「降格」は、役職を解いたり下位の役職・職能等級に引き下げたりする懲戒処分で、一般的には、出勤停止よりもさらに重い処分が必要である場合に適用されます。
永続的に役職手当が失われたり、基本給が下がったりすることになりますが、こちらも降格処分の結果としての減給であるため、「減給の制裁」の上限規制は適用されません。
また、能力や成果に応じて人事考課として行われる降格は、あくまでも人事権の行使であり、そもそも懲戒処分に該当しません。
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減給処分についてよくある質問
減給処分について、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。
- Q賞与からの減給も上限がある?
- Q管理者には減給の上限が適用されない?
- Q減給処分と損害賠償請求は二重処罰?
減給処分は勤怠管理システムが便利
減給処分は、従業員が経済的不利益を受ける懲戒処分の中では軽い処分ですが、就業規則の定めに従って手続きを行わないと、思わぬトラブルに発展しかねません。
また、実際に減給する際の平均賃金を計算したり、欠勤控除と混同しないために控除項目を分けたりといった実務上の作業は、勤怠管理システムを利用することで効率的に進められます。
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