従業員から源泉徴収票の再発行の再発行を依頼された経験はことはないでしょうか?
源泉徴収票の発行は、所得税法・個人情報保護法・労務管理などの観点から、企業が法的責任と信頼性を保ちながら行うべき、非常に重要な業務です。対応を一つ誤れば、情報漏洩のリスクや、行政機関からの指導、企業の信用低下といった、深刻な問題に発展しかねません。
本記事では、事業主や労務管理者の方向けに、源泉徴収票の再発行に関して、想定されるケースや具体的な手続き、実務上の注意点など、わかりやすく解説します。
勤怠管理システムを見直したい方は、勤怠管理システムの選定・比較ヨウケンをご活用ください。無料でご利用できます。
源泉徴収票の再発行は可能?
源泉徴収票の再発行は、所得税法に基づき、企業(給与支払者)に課せられた法的義務です。従業員や退職者から再発行の依頼があった場合、企業は原則としてこれに応じなければなりません。
この交付義務は、所得税法第226条第1項に明記されており、法律の解釈上、従業員が紛失した場合などの請求に応じて再度交付する義務も含まれるとされています。
万が一、正当な理由なく発行・再発行を拒否すれば、税務署からの行政指導の対象となるほか、同法第242条の罰則(一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金)が科される可能性もあります。
実務上、退職者からの再発行依頼は、年末調整や確定申告の時期である12月~翌年3月頃に集中する傾向があります。突然の依頼に担当者が戸惑うことがないよう、社内で手続きのフローを整備しておくことがリスク管理上、極めて重要です。
源泉徴収票とは
源泉徴収票とは、企業が1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った給与・賞与等の総額と、そこから徴収した所得税(源泉徴収税額)の合計額を記載した書類です。従業員にとっては、自身の年間の収入と納付した税額を証明する公的な証明書となります。
これは所得税法で定められた「法定調書」の一つであり、毎月の給与明細の情報を集計した、年間の給与計算の最終結果です。従業員が自身の所得を正確に把握し、確定申告などの税務手続きを行う際の根拠資料となります。
源泉徴収票には、主に以下の項目が記載されており、企業はこれらを正確に計算・記載する義務があります。
- 支払金額: 1年間の給与・賞与の総額(非課税の通勤手当などを除く)。
- 給与所得控除後の金額: 支払金額から給与所得控除額を差し引いた金額。
- 所得控除の額の合計額: 社会保険料控除、生命保険料控除などの合計額。
- 源泉徴収税額: 最終的に確定した年間の所得税額。
源泉徴収票の発行が必要となる場面
企業が源泉徴収票を発行するタイミングは、主に「全従業員に対する年末調整後の交付(翌年1月31日まで)」と「年の中途で退職した従業員に対する交付(退職後1ヶ月以内)」の2つで、これらは所得税法で明確に義務付けられています。
これらに加え、従業員や退職者が具体的にどのような場面で源泉徴徴収票(またはその再発行)を必要とするのかを理解することで、企業は依頼の重要性を把握し、よりスムーズに対応できます。
- 転職: 新しい勤務先での年末調整に、前職の源泉徴収票の提出が必須。
- 確定申告: 医療費控除、住宅ローン控除(初年度)の申請や、副業収入がある場合など。
- 収入証明: 住宅ローン、自動車ローン、クレジットカード、賃貸物件の審査など。
- 扶養家族の申請: 健康保険の扶養追加や、国民年金の第3号被保険者の手続きなど。
- 公的手続き: 保育園の入園申込や、児童手当などの各種助成金の申請など。
このように、源泉徴収票は従業員のライフイベントの様々な場面で必要となるため、再発行の依頼は年間を通じて発生する可能性があります。企業はいつでも対応できる体制を整えておくことが理想です。
勤怠管理システムの検討でお困りのあなたへ
・システム検討時に注意すべき点を整理したい
・システムにより効率化できる点を整理したい
・システムの運用で注意すべき点を整理したい
勤怠管理システムを見直したい方は、勤怠管理システムの選定・比較ヨウケンをご活用ください。無料でご利用できます。
源泉徴収票を再発行する手続きと流れ
源泉徴収票の再発行を依頼された場合、企業は「①受付・本人確認 → ②データ確認・作成 → ③交付」という一貫した手続き(フロー)に沿って対応することが、コンプライアンス遵守と業務効率化の観点から極めて重要です。
場当たり的な対応は、個人情報の漏洩や交付ミス、対応の遅延といった様々なリスクを招きます。特に、源泉徴収票は機密性の高い個人情報を含むため、個人情報保護法に基づいた厳格な取り扱いが求められます。所得税法で定められた交付義務を確実に果たすためにも、標準化された手続きは不可欠です。
具体的な手続きの流れと注意点は、以下の通りです。このフローを社内で共有し、誰が担当しても同じ品質で対応できる体制を整えることが理想です。
・依頼内容(対象年など)を正確に聴取
・なりすまし防止のため、公的身分証で本人確認を徹底
・法的に保管義務のある賃金台帳から正確なデータを抽出
・記載内容に誤りがないかダブルチェック
・依頼者の希望と法的要件に基づき、電子または郵送で交付
・セキュリティ対策(パスワード設定、書留郵便など)を実施
Step1: 依頼内容の受付と本人確認
再発行手続きの第一歩は、依頼内容を正確に把握し、依頼者が間違いなく本人であることを厳格に確認することです。本人確認を怠ったまま個人情報(源泉徴収票)を交付することは、個人情報保護法違反に問われるだけでなく、企業の社会的信用を著しく損なう重大な情報漏洩インシデントに直結します。
本人確認は、以下の方法を組み合わせて慎重に行います。
1. 依頼時に聴取・確認する情報:
- 氏名(フルネーム)
- 生年月日
- 在籍時の従業員番号または所属部署
- 在籍期間(おおよそで可)
- 連絡先(電話番号、メールアドレス)
- 必要な源泉徴収票の対象年
2. 本人確認書類の提出依頼(郵送・メールでの依頼の場合): 原則として、公的機関が発行した身分証明書のコピーを提出してもらいます。「個人情報保護の観点から」と目的を明確に伝え、運転免許証やマイナンバーカード(表面のみ)等の提出を依頼しましょう。
Step2: 対象年度の給与台帳データの確認
本人確認が完了したら、社内に保管されている賃金台帳(給与台帳)を元に、依頼された対象年度の正確なデータを確認します。賃金台帳は、労働基準法第109条により5年間(当面の間は経過措置として3年間)の保管が義務付けられています。
給与計算システムが刷新されている場合は、旧システムやバックアップデータから抽出が必要になることもあります。特に手計算で作成する場合は、計算ミスがないようダブルチェックを徹底するなど、内容の照合を確実に行う必要があります。
Step3: 交付方法(電子・郵送)の選択
源泉徴収票の交付方法は、セキュリティと依頼者の利便性を考慮し、「電子交付」と「郵送」のいずれかを選択します。
所得税法上、電子データ(PDFなど)で交付するには、事前に従業員本人から承諾を得る必要があります。承諾がない場合は、原則として書面での交付となるため注意が必要です。それぞれの交付方法には、以下の特徴があります。
交付方法 | メリット | デメリット・注意点 |
---|---|---|
電子交付 | ・即時性が高い ・印刷、郵送コストが不要 ・ペーパーレスで管理が楽 | ・事前の承諾が必要 ・メールの誤送信など情報漏洩リスク ・パスワード設定などのセキュリティ対策が必須 |
郵送 | ・依頼者の承諾が不要 ・公的書類として受け入れられやすい | ・印刷、郵送コストが発生 ・手元に届くまで時間がかかる ・郵便事故による紛失リスク |
電子交付の場合はPDFにパスワードを設定して別のメールで通知する、郵送の場合は「特定記録郵便」など配達記録が残る方法を利用するなど、安全対策を講じましょう。
勤怠管理システムの検討でお困りのあなたへ
・システム検討時に注意すべき点を整理したい
・システムにより効率化できる点を整理したい
・システムの運用で注意すべき点を整理したい
勤怠管理システムを見直したい方は、勤怠管理システムの選定・比較ヨウケンをご活用ください。無料でご利用できます。
源泉徴収票を再発行する際の注意ポイント
源泉徴収票の再発行業務を遂行する上での注意ポイントは、「厳格な本人確認の実施」「対応期間の明確な伝達」「退職者への丁寧な対応」の3点が特に重要です。これらはそれぞれ、個人情報保護法や所得税法上の交付義務といった法的な背景に基づいています。
本人確認を疎かにして第三者に交付してしまえば重大なコンプライアンス違反となり、発行が遅れれば退職者の確定申告やローン手続きに実害を与え、企業の評判を損なうことにもなりかねません。
再発行に必要な書類
企業が源泉徴収票の再発行を行う際に、依頼者から提出してもらうべき最も重要な書類は「依頼者が間違いなく本人であることを確認するための公的な身分証明書」です。
源泉徴収票は機密性の高い個人情報の集合体であり、なりすましによる不正請求を防ぎ、個人情報保護法を遵守するために、この確認が不可欠となります。
実務を円滑に進めるため、社内で定めた「再発行依頼書」に必要事項を記入してもらうと共に、運転免許証などの身分証明書のコピーを提出してもらうとスムーズです。
【依頼書の主な記載項目】
- 氏名、生年月日、連絡先
- 在籍時の従業員番号、所属部署
- 必要な源泉徴収票の対象年
- 交付希望方法(電子 or 郵送)と送付先住所
このように、再発行に必要な書類を社内ルールとして明確化し、依頼者へ的確に案内することが手続きの第一歩です。特に本人確認書類の提出を徹底することで、情報漏洩リスクを大幅に低減できます。
再発行に要する期間
源泉徴収票の再発行に要する期間について法的な定めはありませんが、トラブルを避けるため、「依頼受付から1~2週間程度」を目安とし、その旨を事前に依頼者へ伝えておくことが賢明です。
法律に具体的な日数の規定はないものの、企業には社会通念上、不当に遅滞することなく交付義務を履行する責任があります。
依頼者から即日発行を求められるケースもありますが、本人確認のやり取り、古いデータの検索、社内承認、郵送日数などを考慮すると、即日対応は原則として困難です。これらの内部プロセスを丁寧に説明することで、依頼者の理解を得やすくなります。
退職者からの再発行依頼への対応
退職者からの再発行依頼への対応で最も重要なのは、在籍中の従業員と区別することなく、「迅速・丁寧・確実」なコミュニケーションを徹底することです。ぞんざいな対応や遅延は、企業の評判を損なうだけでなく、最悪の場合、行政機関への相談といった外部トラブルに発展する可能性があります。
具体的な対応のポイントとして、問い合わせ窓口(人事部など)を一本化し、依頼を受けたら24時間以内に一次応答するだけでも、依頼者の心証は大きく異なります。「本人確認書類が必要です」「発行まで2週間ほどかかります」など、手続きの流れと期間を明確に説明することも重要です。
勤怠管理システムの検討でお困りのあなたへ
・システム検討時に注意すべき点を整理したい
・システムにより効率化できる点を整理したい
・システムの運用で注意すべき点を整理したい
勤怠管理システムを見直したい方は、勤怠管理システムの選定・比較ヨウケンをご活用ください。無料でご利用できます。
源泉徴収票の再発行についてよくある質問
源泉徴収票の再発行について、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。
- Q紙の源泉徴収票や電子データは何年間保管すべき?
- A
源泉徴収票そのもの(企業控分)と、その作成根拠となる賃金台帳の保管期間は、それぞれ異なる法律で定められていますが、最も安全な対応は、期間が長い税法に合わせて「7年間」保管することです。
これは、賃金台帳の保管を義務付ける労働基準法(5年、当面は3年)と、帳簿書類の保管を義務付ける法人税法(7年)の両方を確実に満たすためです。税務調査などで提出を求められる可能性も考慮し、7年間を社内ルールとして採用することを強く推奨します。
- Q即日再発行を求められたら?
- A
従業員や退職者から「本日中に発行してほしい」といった即日発行の依頼があった場合、標準的な手続きとそれに要する期間(例:1~2週間)を丁寧に説明するのが適切な対応です。
即日対応を強制する法的な根拠はなく、むしろ厳格な本人確認や正確なデータ検索といったプロセスを省略することは、重大な情報漏洩や書類の誤作成リスクを招きます。
対応の際は、「セキュリティ確保と正確なデータ確認の手続きのため、即日発行は致しかねます」と具体的な理由を伝えます。続いて「通常1~2週間で発行可能ですので、早速手続きを進めます」と明確な見通しを提示することが重要です。
- Q従業員本人以外の代理人から再発行依頼があった場合は?
- A
従業員本人以外の代理人(配偶者、税理士など)からの依頼は、情報漏洩リスクが非常に高いため、原則として本人と直接やり取りすべきです。対応する場合でも、「本人からの委任状」と「代理人自身の身分証明書」の2点を確実に確認できた場合に限定します。
本人の明確な同意なく第三者へ個人情報を渡すことは、個人情報保護法に抵触する重大なコンプライアンス違反です。たとえ家族であっても法的には第三者となります。
対応する際は、①委任状の提出を求め、②代理人自身の本人確認を行い、さらに可能であれば③電話などで本人へ直接、委任の意思を確認する、という三重のチェックを徹底しましょう。
まとめ
源泉徴収票の再発行は、所得税法で定められた企業の法的義務であり、単なる事務作業ではなく、個人情報保護法も関わる重要な労務管理業務です。企業のコンプライアンスと信頼性を守るため、一貫した社内ルールに沿って対応する必要があります。
依頼があった際の基本的な流れは「①受付・本人確認 → ②データ確認・作成 → ③交付」です。 まず、手続きの第一歩として、なりすましによる情報漏洩を防ぐため、運転免許証などの身分証明書で厳格な本人確認を徹底しましょう。
特に、退職者や代理人からの依頼は、企業の対応姿勢が問われる場面です。迅速かつ丁寧なコミュニケーションを心がけ、代理人からの依頼の場合は「本人からの委任状」と「代理人の身分証明書」の確認を徹底するなど、通常以上に慎重な対応が求められます。
これらの手続きを標準化し、マニュアルとして整備しておくことが、担当者の負担を軽減し、企業の信頼性を守る鍵となります。
源泉徴収票の再発行のような、正確性とセキュリティが求められる業務は、労務管理とも密接に関わってきます。日々の勤怠記録、給与計算、そして年末調整といった一連の業務フロー全体を効率化し、人的ミスを減らすことが、企業の生産性向上とコンプライアンス強化に直結します。
その基盤となるのが、自社に最適な「勤怠管理システム」の導入です。勤怠管理システムの選定・比較サイト「勤怠管理システムの選定・比較ヨウケン」では、多種多様なシステムの機能や料金を客観的に比較し、貴社の課題を解決する最適なツールを見つけることができます。
勤怠管理システムでお困りのあなたへ
・今よりも良い勤怠管理システムがあるか知りたい
・どのシステムが自社に合っているか確認したい
・システムの比較検討を効率的に進めたい
勤怠管理システムを見直したい方は、勤怠管理システムの選定・比較ヨウケンをご活用ください。無料でご利用できます。