2019年4月(中小企業は2020年4月)から施行されている働き方改革関連法によって、それまで青天井だった残業時間に上限が設定され、違反した場合は罰則が科されることになっています。原則的な上限を超えて残業が可能となる特別条項を設けていても、ひと月の残業時間は100時間未満でなくてはなりません。
この記事では、事業主や管理者向けに、月100時間以上の残業にはどのようなリスクや罰則があるのか、わかりやすく解説します。
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残業時間の上限規制とは
労働基準法によって1日8時間・週40時間が法定労働時間と定められており、法定労働時間を超える残業を命じるためには、36協定の締結・届出が必要です。
36協定の締結・届出をしていない状態で時間外労働や休日労働を命じた場合、労働基準法違反に問われ、30万円以下の罰金または6か月以下の懲役が科せられる可能性があります。
また、36協定の有無に関係なく、実際に発生した時間外労働に対しては、基礎賃金に25%以上の割増率を掛けた割増賃金を支払わなくてはなりません。
原則的な上限は月45時間
36協定で設定できる時間外労働の上限は、月45時間及び年間360時間までと定められています。これを超える時間を設定したとしても認められず、無効とされます。なお、この上限規定に、法定休日における労働「休日労働」の時間は含まれないため、注意が必要です。
特別条項を設けても上限がある
やむを得ず月45時間を超えて残業が必要となるような「臨時的な特別な事情」がある場合は、36協定に「特別条項」を設けることで原則の上限を超えた残業が認められます。
この「臨時的な特別な事情」は、「予算、決算業務」「納期のひっ迫」「大規模クレームへの対応」「システム障害対応』など、通常予見できない急激な業務量の増加の場合に限って認められます。「事業主が必要と認めた場合」「慢性的な人手不足」などは、臨時的な特別な事情とは認められません。
また、特別条項を設けた場合でも、以下の要件をすべてクリアする必要があります。
- 時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間未満及び年720時間未満であること
- 月45時間を超えることのできる回数は年6回まで
- 時間外労働と休日労働の合計時間が「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」のいずれも80時間以内であること
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月100時間残業のリスクと罰則
従業員と企業双方にとって、様々なリスクが存在します。従業員の場合は、長時間労働に伴う休息時間の減少で疲労が抜けず、健康状態が悪化や集中力の低下により、思わぬ業務災害を招く恐れがあります。
また、企業側としても特別条項の上限をも超えるような長時間労働を命じることは明白な違法行為であり、使用者に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
100時間の残業は「過労死ライン」
1ヶ月に100時間を超える長時間残業は、労働者の心身の健康状態を著しく悪化させ、一般的に過労死ラインとされています。
労働者災害補償保険(いわゆる「労災」)の「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」において、「直近1ヶ月前に100時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い」とされています。
また、同じく「心理的負荷による精神障害の認定基準」においては、「1ヶ月に100時間以上の時間外労働」が心理的負荷「強」であると定義され、労災認定される可能性が非常に高いと言えます。
2021年7月には、厚生労働省の有識者検討会にて「過労死ラインを超えていなくても労災と認める場合があること」などの認定基準の見直し案が示され、今後も基準引き下げの方向で見直しが進むと見られています。
医師による面接指導とは
月の時間外・休日労働が80時間を超過した労働者から申し出があった場合は、医師による面接指導を受けさせなくてはなりません。これは、労働安全衛生法の「労働者の健康維持を図る」義務によるものです。
面接指導義務は、高度プロフェッショナル制度対象者を除き、変形労働時間制や裁量労働制の対象者、管理監督者なども対象となります。
時間外・休日労働時間が月80時間を超えた労働者がいた場合、まずは労働者本人に対して、労働時間に関する情報を通知しなければなりません。そのうえで、通知を受けた労働者から医師による面接指導を受ける旨の申し出があった場合は、会社は面接指導を実施しなくてはなりません。
また、事業場に産業医がいる場合は、該当労働者に関する作業環境や時間外労働の時間数、深夜労働の回数などの情報を、産業医に提供する必要があります。面接指導実施後は、面接指導を担当した医師から意見聴取を行い、面接指導の結果を踏まえて、就業場所の変更、作業の転換等の必要な事後措置を行わなくてはなりません。
研究開発業務従事者に対する面接指導
研究開発業務従事者については、上記の義務に加えて、時間外・休日労働が月100時間を超えた場合、本人からの申し出がなくても、医師による面接指導を受けさせなければなりません。
つまり、時間外・休日労働が月80時間を超えた場合は本人からの申し出があれば、100時間を超えた場合は本人からの申し出がなくても、と2段階のステップがあることになります。
なお、研究開発業務従事者は、残業時間の上限規制の対象から除外されており、建設業や運転業務従事者の適用猶予業種に上限が適用される2024年4月以降も、適用除外のままとなっています。
高度プロフェッショナル制度対象者に対する面接指導
高度プロフェッショナル制度対象者は、労働時間や休日の規定が適用されず、時間外労働や休日労働という概念がありません。そのため、対象にできる労働者は「高度な専門的知識及び能力を要する特定の業務に従事し、かつ年収が1,075万円以上である」という厳格な要件が設定されています。
高度プロフェッショナル制度対象者には労働時間の適用がない代わりに、使用者は対象労働者が「事業場内にいた時間」と「事業場外において労働した時間」の合計を「健康管理時間」として、把握する義務があります。
「1週間あたりの健康管理時間が40時間を超えた時間」が100時間を超えた場合は、本人からの申し出がなくても医師による面接指導を受けさせなければならず、これを怠った場合は50万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、100時間を超えていなくても、高度プロフェッショナル制度対象者本人から申し出があった場合は、医師による面接指導を受けさせなければなりません。
月80時間を超えると「かとく」の立入検査が入ることも
残業が月100時間以内であっても、80時間を超える残業が行われている事業場に対しては、管轄都道府県労働局の過重労働特別対策班(通称「かとく」)の立入検査対象になる可能性があります。
「かとく」は2016年に違法長時間労働・過重労働の撲滅を目的に設立され、摘発逃れを目的とした勤怠データ改ざんなどに対応するため、ITに精通した労働基準監督官で構成されています。
過去には、大手広告代理店や大型ディスカウントショップなどが捜査対象となり、書類送検に発展するなど、違法労働の実態がマスコミなどでも報道されました。立入検査において、違法状態となる残業などが発覚した場合は、企業名公表や書類送検が行われる可能性もあります。
そうなると、世間に「ブラック企業」のイメージが定着し、社会的信用を失って今後の経営が厳しい状態に追い込まれることは必至です。
「過労死等ゼロ」緊急対策による企業名公表の対象にもなる
2016年に「過労死等ゼロ緊急対策」基準が強化され、企業名公表について以下のような基準となりました。
- 月80時間を超える違法な長時間労働を行った従業員が10人以上、または4分の1以上に達した
- 過労死等・過労自殺等で労災支給決定があり、被災者について月80時間を超える違法な長時間労働が認められる
- 事案の態様が1.及び2.と同程度に重大・悪質と認められるもの
- 月100時間を超える違法な長時間労働を行った従業員が10人以上、または4分の1以上に達した
- 過労死、過労自殺による労災支給決定があり、被災者について月80時間を超える違法な長時間労働が認められる
1.~3.については、1年間で2事業場以上で該当事案が見られた場合、労働基準監督署長による企業幹部呼び出し指導があり、その後の立入調査にて改善が見られない場合に公表対象となります。
また、1年間で4.及び5.で2事業場以上、または5.の事案が2事業場以上で見られた場合、呼び出し指導及び立ち入り調査を経ることなく、公表対象となります。
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月100時間残業についてよくある質問
月100時間残業が発生した場合に関して、よく寄せられる質問をQ&A形式にまとめました。
- Q残業時間月100時間は1日何時間?
- Q残業が月100時間超えたらどうなる?
月100時間残業は、勤怠管理システムで早急に改善が必要
企業名公表による企業イメージの失墜や罰則のリスクという以前に、月100時間に及ぶ残業は大切な従業員の健康を守る観点からも、早急に対処すべき問題です。
そのためには勤怠管理システムの活用が有効です。システム導入により、リアルタイムに個々の従業員の勤怠状況が把握できるため、超過労働に陥りそうな従業員に対して、個別に早期ケアが可能となり、長時間労働の抑制につながります。
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