2016年10月から順次適用されている、短時間労働者の社会保険加入義務について、2024年10月からは従業員規模51人以上の企業にも拡大適用されることになっています。

特に「週の所定労働時間20時間以上」「所定内賃金8.8万円以上」という要件については、実務上判断に迷うケースも多々あると予想されます。

そこでこの記事では、新たに適用対象となる企業の事業主及び人事労務管理者の方向けに、短時間労働者の社会保険加入要件をわかりやすく解説します。

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社会保険とは

社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険を指し、労働者の病気やケガ、老後などのリスクに備えるための保険制度を指します。なお、雇用保険と労働者災害補償保険(労災)も合わせて、「広義の社会保険」と呼ぶこともあります。

本記事では以降、社会保険料によって運営される健康保険と厚生年金保険にテーマを絞って、解説を進めていきます。

従業員規模に関わらず加入対象となる労働者

以下に該当する労働者は、従業員規模に関わらず社会保険の加入対象となります。

  • フルタイム労働者
  • 週の所定労働時間及び月の所定労働日数がフルタイム労働者の3/4以上である労働者

たとえば、フルタイム労働者の週の所定労働時間が40時間、月の所定労働日数が20日である事業場においては、週の所定労働時間が30時間以上で月の所定労働日数が15日以上の労働者は、社会保険に加入させる義務があります。

従業員数51人以上の企業(2024年10月~)において加入対象となる労働者

2024年10月からの法改正により、従業員数51人以上(2024年9月までは101人以上)の企業では、短時間労働者にも社会保険の加入義務が拡大されます。対象者となる要件は以下のとおりです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 所定内賃金が8.8万円以上であること
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがあること
  • 学生ではないこと

なお、この従業員数については、先に挙げた「フルタイム労働者」及び「週の所定労働時間及び月の所定労働日数がフルタイム労働者の3/4以上である労働者」を合算してカウントします。

週の所定労働時間が20時間以上であること

週の所定労働時間とは、雇用契約書や就業規則等で定められた労働時間を指すため、日々の残業時間や休日労働の時間は含まれません。

ただし、雇用契約上の所定労働時間が20時間に満たない場合でも、実労働時間が2ヶ月連続で20時間以上となり、以降も20時間以上となる見込みがあるときは、3ヶ月目から加入対象となります。

所定内賃金が8.8万円以上であること

所定内賃金とは、月ごとに支給される賃金のうち、基本給と固定的な手当を合算したものを指します。よって、以下に該当する金銭は所定内賃金には該当しません。

  • 1ヶ月を超えるごとに支給される賃金(賞与等)
  • 時間外割増賃金、休日割増賃金及び深夜割増賃金
  • 最低賃金に算入しないことが定められている手当(精皆勤手当、家族手当、通勤手当等)

2ヶ月を超える雇用の見込みがあること

2022年10月の法改正により、「1年を超える雇用の見込み」という要件が2ヶ月に短縮されました。基本的には、2ヶ月以内に雇用契約を終了させることが明示されていない限り該当することになり、以下のようけ場合はいずれも「2ヶ月を超える雇用の見込み」があると判断されます。

  • 雇用契約に更新する場合がある旨の規定があり、2ヶ月以内での雇止めの明示がないとき
  • 雇用契約に更新規定はないものの、同様の雇用契約により雇用された労働者が2ヶ月を超えて雇用された実績があるとき

学生ではないこと

学生は通常、経済的に独立していないことがほとんどであるため、基本的に社会保険の加入対象外となります。ただし、以下に該当する場合は学生であっても社会保険の加入対象となります。

  • 通信制や夜間部の学生
  • 定時制高校の学生
  • 休学中の者
  • 卒業見込証明書を有する者で、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の者
  • 出席日数が修了要件に含まれない学校に通っており、社内でほかの従業員と同様の労働条件で働ける者

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短時間労働者の社会保険加入要件の注意点

短時間労働者を社会保険に加入させるための要件について、実務上判断に迷うケースとその考え方について解説します。

要件を一部でも満たしていなかったら?

適用要件として挙げた4つの要件をすべて満たしている場合に限り、短時間労働者の加入義務が発生します。たとえば、週の所定労働時間が20時間以上であっても、所定内賃金が8.8万円未満であれば、加入義務は発生しないということになります。

所定内賃金が一時的に8.8万円未満となった場合

一時的に賃金が88,000円未満に下がっても、社会保険の資格が自動的に喪失するわけではありません。たとえば、欠勤や遅刻による不就労控除が行われた結果、ある月の所定内賃金が8.8万円未満となったとして、基本的には社会保険の被保険者資格は維持されます

ただし、上記のような欠勤や遅刻が複数月に渡って続き、所定内賃金が8.8万円未満となることが常態化している場合は、もはや要件は満たしていないと考えられるため、被保険者資格の喪失手続きを取るべきでしょう。

所定内賃金が一時的に8.8万円以上となった場合

所定労働日数などの関係で、一時的に月額賃金が88,000円を超えても、雇用契約上の賃金がこの基準を満たさない場合、社会保険の加入義務は発生しません。ただし、昇給や手当の見直しなどにより、常態として所定内賃金が8.8万円以上となる場合には、加入義務が発生する可能性があります。

目安として、労働時間の場合は「実労働時間が2ヶ月連続で20時間以上となり、以降も20時間以上となる見込みがあるときは、3ヶ月目から加入対象となる」という判断基準があるため、所定内賃金についてもこれが類似適用されると考えておきましょう。

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短時間労働者への社会保険適用拡大に向けてやるべきこと

2024年10月の法改正により、新たに短時間労働者の社会保険適用対象となる従業員規模51人以上の企業は、早急に対応を迫られています。具体的には、まず該当する従業員を把握し、社内で周知を行い、迅速に加入手続きを進める必要があります。

新たな適用対象者となる短時間労働者を把握する

所定労働時間や所定内賃金などの加入要件を満たす労働者を、正確に把握することが必要です。確認方法としては、雇用契約書や賃金台帳の確認、勤怠管理システムの活用などが挙げられます。

新規加入対象者及び人事労務担当者へ周知する

労働者や人事労務担当者に対して、法改正後の社会保険加入条件を正確に周知します。周知方法としては、社内イントラネットやメールによる通知、説明会の実施、個別面談、Q&A資料の作成などが挙げられます。

また、人事労務担当者は、新規加入対象者に比例して業務負担も増えるため、あらかじめその旨を通知しておくことが必要です。

社会保険の新規加入手続き行う

社会保険加入手続きを迅速に進めることが必要です。具体的には、被保険者資格取得届の作成、健康保険証の交付、被扶養者の届け出など、法定の期限内に手続きを完了させます。

特に「被保険者資格取得届」については、加入義務が発生してから5日以内つまり2024年10月5日までに行う必要があるため、早急な対応が求められます。

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まとめ

2024年10月の法改正に伴い、短時間労働者の社会保険加入義務を負う企業の範囲が、従業員規模51人以上に適用拡大されることとなり、対象企業は労働者の労働時間や賃金を正確に把握する必要があります。

特に、週の所定労働時間や所定内賃金についての要件は、判断基準を誤ってしまう可能性もあるため、本記事の内容をしっかりとチェックしておきましょう。社会保険加入の判断には、正確な労働時間データが不可欠ですが、これには勤怠管理システムの導入がおすすめです。

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