一般的に、法定労働時間は「週40時間」と認識されています。しかし、特定の業種で、常時使用する労働者が10人未満の小規模事業場(「特例措置対象事業場」と呼びます)においては、「週44時間」まで法定労働時間を延長できる特例措置があるのをご存知でしょうか?

この制度を正しく理解し、適用することで、残業代の削減や柔軟なシフト管理が可能になり、企業のコスト削減や従業員のワークライフバランス向上に繋がります。

この記事では、特例措置対象事業場の事業主・管理者の方向けに、制度の基本的な定義や要件から、具体的な活用ケース、他の制度との併用可否などについて、わかりやすく解説します。

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週44時間労働の特例措置とは?

週44時間労働の特例措置とは、特定の要件を満たす業種の事業場において、法定労働時間を原則の週40時間から週44時間に延長できる制度です。労働基準法で定められた例外的な措置であり、小規模事業者の実情に合わせた柔軟な労働時間管理が可能となります。

法定労働時間「週40時間」との違い

原則、労働基準法では1週間の法定労働時間を40時間と定めていますが、特例措置対象事業場では、この上限が44時間まで認められます。

ただし、1日の法定労働時間が8時間である点は、一般的な事業場と変わりません。よって、特例措置対象事業場であっても、1日の労働時間が8時間を超える場合は、36協定の締結・届出と割増賃金の支払いが必要となります。

また、深夜労働や休日労働に関する規定も、一般的な事業場と同じく適用されるため、深夜割増賃金や休日割増賃金の支払いも必要です。

特例措置対象事業場に該当する業種

週44時間の特例措置が認められる業種は、労働基準法施行規則第25条の2により、以下の4つに限定されています。

  • 商業: 商品の卸売・小売を行う事業(例:小売店、卸売業)
  • 映画・演劇業: 映画・演劇の興行、映画の製作、配給などを行う事業(例:映画館、劇場、演芸場)※映画の製作の事業は除かれます。
  • 保健衛生業: 病院、診療所、その他の医療、保健衛生に関する事業(例:病院、診療所、歯科医院、薬局、介護老人保健施設)
  • 接客娯楽業: 旅館、飲食店、その他の接客娯楽に関する事業(例:旅館、ホテル、飲食店、ゴルフ場、理美容店)

なお、映画・演劇業のうち「映画の製作の事業」は、労働時間の管理が特に困難であるという理由から、特例措置の対象から除外されています。

業種の判断は、日本標準産業分類に基づいて行われます。事業内容が多岐にわたる場合は、主たる事業によって判断されます。判断が難しい場合は、所轄の労働基準監督署に相談することをお勧めします。

「常時使用する労働者が10人未満」とは

「常時使用する労働者が10人未満」とは、正社員だけでなく、パートやアルバイトなど継続的に雇用されている労働者を含む基準です。一時的に10人以上になっても、常態として10人未満であれば、この要件を満たします

週に1回しか勤務しないパートであっても、継続的に雇用されていれば、1人にカウントされます。なお、派遣労働者は、派遣元の労働者としてカウントされるため、派遣先の「常時使用する労働者」には含まれません。

また、この労働者数は事業場単位で判断するため、企業全体の従業員数が10人以上であっても、特定の事業場の従業員数が常時10人未満であれば、特例措置の対象となります。

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週44時間労働制の活用ケース

週44時間労働制は、特例措置に基づき事業場の特性や従業員のニーズに合わせた柔軟な働き方を可能にする制度です。以下では、主に3つの活用方法について具体的に解説します。

週6日制で1日だけ所定労働時間を短くする

週6日勤務を基本とし、特定の1日の所定労働時間を短く設定することで、週の労働時間を44時間以内に収める方法です。例えば、月曜日から金曜日までを8時間勤務、土曜日を4時間勤務とすることで、合計で週44時間の労働時間となります。

労働時間にメリハリをつけることで、従業員の負担を軽減しつつ、事業の必要に応じた労働時間を確保できる点がメリットです。土曜日などの特定の曜日に顧客対応や軽微な業務が残る業種(例:小売業、接客業など)に適しています。

週6日制で所定労働時間を統一する

週6日勤務とし、全ての曜日で所定労働時間を均等に配分することで、週44時間以内に収める方法です。例えば、1日あたりの所定労働時間を7時間20分とすることで、週44時間(7時間20分 × 6日 = 44時間)の労働時間となります。

この形態は、事業者側にとっては管理が簡単で、従業員にとっては生活リズムも整えやすいというメリットがあります。毎日一定の業務量がある業種(例:飲食店、理美容業など)に適しています。

週5日制で所定労働時間を統一する

週5日勤務とし、1日あたりの所定労働時間を長く設定することで、週44時間以内に収める方法です。例えば、1日あたりの所定労働時間を8時間48分とすることで、週44時間(8時間48分 × 5日 = 44時間)の労働時間となります。

週休二日制が維持できるため、従業員のワークライフバランスを重視しつつ、業務の効率化を図りたい業種に適しています。ただし、常に1日の法定労働時間を超えることになるため、36協定の締結・届出が必須であり、残業代も日々発生することになります。

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週44時間労働制と他制度との関係

週44時間労働制は、特例措置として認められている制度ですが、他の労働時間制度との組み合わせや適用には注意が必要です。それぞれの制度の特徴や制限を理解することで、適切な労務管理を行うことが可能になります。

週44時間労働制と1ヶ月単位の変形労働時間制

週44時間労働制と1ヶ月単位の変形労働時間制を併用することで、1ヶ月以内の期間を平均して1週間あたりの労働時間が44時間以内であれば、特定の日や週に法定労働時間(1日8時間、1週44時間)を超えて労働させることが可能になります。

1ヶ月単位の変形労働時間制は、労使協定または就業規則等で定めることにより、1ヶ月以内の一定期間を平均し、1週間あたりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えない範囲内において、特定の日や週において法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

なお、変形労働時間制には、1ヶ月を超える期間を定めるいわゆる「1年単位の変形労働時間制」がありますが、こちらは特例措置対象事業場であっても、期間内の週平均労働時間を40時間に収める必要があります。

週44時間労働制と1週間単位の非定型的変形労働時間制

1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、従業員数30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店において、1週間単位で各日の労働時間を柔軟に設定し、1日10時間まで労働させることが可能となる制度です。

ただし、週の法定動労時間は40時間が上限であり、これは特例措置対象事業場であっても変わりません。つまり、両者は併用不可の別制度であり、「1日10時間かつ週44時間」という働かせ方はできないということになります。

週44時間労働制とフレックスタイム制

フレックスタイム制は、始業・終業時刻の設定を従業員に委ねる制度です。フレックスタイム制においては、法定労働時間は日単位や週単位ではなく、清算期間と呼ばれる対象期間内のトータルの総労働時間で判断されることになります。

特例措置対象事業場においても、フレックスタイム制を併用することは可能です。ただし、週単位で法定労働時間を判断しないことに加え、清算期間内の総労働時間の上限は特例措置対象事業場であっても変わらないため、特にメリットは無いと言えるでしょう。

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週44時間労働制についてよくある質問

週44時間労働制について、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。

Q
週44時間労働の場合の残業代計算は?
Q
週44時間労働は就業規則にどう記載する?
Q
週44時間労働の場合に36協定は必要?
Q
週44時間労働における年間休日数は?

週44時間労働制を採用する場合は勤怠管理システムも活用しましょう

週44時間労働制は、特例措置として一定の業種や事業場に適用され、労働時間の柔軟な運用を可能にする制度です。この制度を適切に活用することで、企業のコスト削減や従業員の働きやすさ向上が期待できます。

しかし、導入には法的要件を満たしているのかの見極めや就業規則の整備、適切な所定労働時間の設定などが求められます。このように、週44時間労働制を適切に導入し、労務管理を徹底するためには、信頼できる勤怠管理システムの導入が不可欠です。

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