• 「制服への着替え時間って、労働時間に含まれているの?」
  • 「着替え時間について、従業員から質問されて、どう答えたらいいか…」

事業主や労務管理を担当されている方にとって、従業員の着替え時間を労働時間として扱うべきかどうかは、頭を悩ませる問題の一つでしょう。「たかが着替え」と軽く考えていると、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。

本記事では、労働時間の基本的な定義から、着替え時間が労働時間に含まれるケース・含まれないケースの具体的な事例、着替え以外に労働時間に含まれる可能性のある行為などについて、わかりやすく解説します。

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労働時間と着替え

労働時間とは、使用者(企業)の指揮命令下にある時間を指します。制服への着替えが業務上必要とされ、企業がその行為を管理している場合、着替え時間も労働時間に含まれる可能性が高いといえます。

従業員の着替え時間が労働時間に該当するか否かは、労働基準法の解釈や判例に基づき慎重な判断が必要です。

労働時間とは

労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。労働基準法において明確に定義されているわけではありませんが、以下の判例による定義が一般的となっています。

「労働基準法上の労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

三菱重工業長崎造船所事件(平成12年3月12日最高裁判決)|全基連

この「指揮命令下」とは、明示的な指示だけでなく黙示的な指示や業務遂行に必要な準備行為を含むとされています。事業主や管理者は、この定義を正しく理解し、従業員の労働時間を適切に管理する必要があります。

着替えは労働時間に含まれる?

従業員の制服や作業服への着替え時間が労働時間に含まれるかどうかは、一律に判断されるわけではなく、個々の状況に応じて判断されます。着替えが業務上義務付けられるなど、使用者の指揮命令下で行われていると認められる場合には、労働時間に該当する可能性が高くなります。

着替え時間が労働時間に含まれるかどうかは、着替えの必要性、場所、時間に関する使用者の関与の程度などを総合的に考慮して判断されます。従業員とのトラブルを避けるためにも、着替え時間の扱いについて明確なルールを定め、従業員に周知徹底する必要があります。

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着替えが労働時間に該当するケース

着替え時間が労働時間に該当するかは、業務上の必要性や企業の指示が重要な判断基準です。具体的に該当するケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 会社の明示的な指示・命令がある場合
  • 会社からの黙示的な命令があると判断される場合
  • 着替え場所が会社から指定・拘束されている場合
  • 業務上、着替えが義務付けられている、または必要不可欠な場合

会社の明示的な指示・命令がある場合

会社が従業員に対して、就業規則や個別具体的な指示など、明確な形で着替えを命じている場合、その着替え時間は労働時間に該当する可能性が高いと言えます。

具体的には、就業規則で始業時刻前に所定の制服に着替えることを明記している場合や、朝礼などの場で管理者が従業員に対して制服への着替えを指示する場合などが該当します。

なお、従業員が任意で着替えを行っている場合や、会社からの指示が極めて緩やかで、従業員の自由な判断に委ねられていると認められる場合は、労働時間に該当しない可能性もあります。

会社からの黙示的な命令があると判断される場合

明確な指示がなくても、職場の慣習や環境により従業員に特定の行動が求められる場合、黙示的な命令とみなされることがあります。

黙示的な命令とは、会社が明示的には指示していなくとも、従業員が着替えをせざるを得ない状況が作り出されている場合を指し、具体的には以下のようなケースが考えられます。

  • 制服を着用しないと、会社の評価や人事考課に不利益が生じる可能性がある
  • 同僚や上司からの圧力、事実上の強制により、着替えざるを得ない状況がある
  • 始業時刻前に制服を着用していることが慣習となっており、着替えない従業員がいない、あるいはほとんどいない状況がある

着替え場所が会社から指定・拘束されている場合

企業が特定の場所での着替えを義務付けている場合、その着替え時間は労働時間に該当する可能性が高くなります。会社が着替え場所を指定するということは、従業員に対して場所的な拘束を加えていることになり、使用者の指揮命令下にあると評価されやすくなります。

具体的には、就業規則等で事業場内の更衣室以外での着替えを禁止している場合は、更衣室が事業場内に設置されており、従業員は事実上そこで着替えることを余儀なくされている場合などが該当します。

ただし、会社が更衣室を設置しているだけでは本ケースに該当するとは言えず、従業員が自宅で着替えてくることが認められているなど、着替え場所が従業員の自由に委ねられている場合は、労働時間に該当しない可能性もあります。

業務上、着替えが義務付けられている、または必要不可欠な場合

業務の性質上、着替えが義務付けられている、または安全面・衛生面等の理由から着替えが必要不可欠な場合、その着替え時間は労働時間に該当する可能性が高くなります。具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 製造工場で、作業着や安全保護具(ヘルメット、安全靴、防塵マスクなど)の着用が義務付けられている場合
  • 食品工場や飲食店で、衛生管理のために制服や帽子、マスクなどの着用が義務付けられている場合
  • 医療機関で、感染予防のために白衣や手術着などへの着替えが義務付けられている場合
  • 警備員など、法令等で制服着用が定められている場合

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着替えが労働時間に該当しないケース

着替え時間が労働時間に該当しないケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 従業員側の都合で着替えている場合
  • 着替えが簡易である場合
  • 通勤時に制服の着用が認められている場合

従業員側の都合で着替えている場合

従業員が自らの都合で、業務とは関係なく着替えを行っている場合、その着替え時間は労働時間に該当しません。たとえば、出勤後に私服からオフィスカジュアルな服に着替える場合や、退勤後のプライベートな予定のために服を変更する場合がこれに該当します。

ただし、従業員の都合による着替えであっても、会社の更衣室を使用するよう義務付けられている場合等は、状況により労働時間に含まれる場合もあります。

着替えが簡易である場合

制服への着替えが非常に簡易であり、社会通念上、労働時間とみなす必要がないと判断される場合は、着替え時間は労働時間に該当しない可能性があります。着替えが極めて短時間で完了し、従業員にほとんど負担が生じないと認められる場合は、使用者の指揮命令下にあるとは言えません。

具体的には、帽子やエプロン、安全靴などの着脱のみの場合や、更衣室を必要としない簡単な制服の着用が該当します。ただし、これらの行為が業務遂行に必要であり、企業が指示している場合は例外となる可能性があります。

通勤時に制服の着用が認められている場合

会社が従業員に対して、通勤時に制服の着用を認め、従業員が任意で通勤時に制服を着用している場合、自宅での着替え時間は労働時間に該当しません。自宅での着替えは従業員の自由意思に委ねられており、使用者の指揮命令下にあるとは言えないためです。

ただし、会社が通勤時に制服を着用しての移動を実質的に強制している場合は、労働時間に該当する可能性があります。会社は、通勤時の服装について明確なルールを定めることが必要です。

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着替え以外で労働時間に含まれる可能性のある行為

労働時間は、単に作業に従事している時間だけでなく、企業の指揮命令下にある全ての時間を指します。以下で、着替え以外で労働時間に含まれる可能性のある行為についての具体的に解説していきます。

始業前の準備や清掃

会社から命じられた準備や清掃、業務上必要不可欠な準備や清掃は、労働時間に該当する可能性が高いです。たとえば、始業前に機械の点検や作業場の清掃を行うことが義務付けられている場合、これらの行為は労働時間として扱われます。

具体的には、使用者の指揮命令下にあると考えられる以下のような行為な準備や清掃は労働時間に含まれます。

  • 作業場への資材の搬入
  • 飲食店における調理前の食材の下処理
  • 店舗開店前の清掃・商品陳列
  • 工場における生産ライン稼働前の機械点検

なお、従業員が任意で行うメールチェックなどの準備や私物の整理整頓、机の拭き掃除などは、労働時間には該当しないとされています。

休憩時間中の電話当番・待機時間

休憩時間中でも、企業の指示で電話対応や緊急待機を行う場合は労働時間とみなされます。たとえば、緊急対応のための電話やメールを受け取る義務がある場合や、移動が制限されて待機を指示されている場合がこれに該当します。

労働基準法が定める休憩時間は、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間でなければなりません。電話当番や顧客対応のための待機は、労働からの解放が保障されておらず、労働時間に該当すると考えられます。

一方、待機中に私的な行動が許可されている場合や携帯電話等を所持しての外出を認められてる場合は、休憩時間として運用して差し支えないとされています。

朝礼や研修

会社からの指示・命令により参加を義務付けられている朝礼や研修は、業務遂行の一部として労働時間に該当する可能性が高いです。労働時間に該当する朝礼や研修としては、以下のようなものが挙げらます。

  • 業務連絡、体操など、会社が指示して業務開始前に行われる朝礼
  • 会社が参加を義務付けている、業務に必要な知識・スキルの習得、資格取得のための研修
  • 人事評価や昇給・昇格など、参加しないことで不利益が生じる朝礼・研修

一方、従業員が自由意思で参加する朝礼や研修(例:自主勉強会、自己啓発セミナーなど)は、労働時間に該当しない可能性が高いです。

仮眠時間

業務中に仮眠を取る場合でも、業務遂行の一環として使用者の管理下にある場合は労働時間に含まれます。この点について、ビル管理会社の従業員の仮眠時間に関する判例で以下のように判示されています。

仮眠時間が労働時間に該当するか否かは、労働者が実作業に従事していないというだけでは決することはできず、仮眠時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価されるか否かにより客観的に定まるものであって、仮眠時間における労働者の行為や状況及び実作業への関与の態様、状況等から当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労基法上の労働時間に当たる。

大星ビル管理事件 最二小判平成14年2月28日

仮眠時間が労働時間に該当する例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 警備員や長距離ドライバーなどの仮眠時間で、緊急事態に備えて待機している場合
  • 電話対応や、機械監視など、業務上の対応が必要になった場合には、直ちに対応する義務がある場合
  • 事業場内で仮眠することを義務付けられ、外出が制限されている場合

一方で、従業員が自由に利用できる休憩室で仮眠をとっている場合や、仮眠時間中は業務から完全に解放されていることが保障されている場合は、労働時間に該当しないとされています。

移動時間・通勤時間

通勤は労働者が就業の場所に出向くための行為であり、通常は使用者の指揮命令下にはないため、労働時間には該当しません。一方で、出張先への移動や、業務指示に基づいて特定の場所への移動は労働時間に該当する可能性が高いと言えます。

労働時間に該当する移動時間の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 会社の指示で、得意先へ物品を運搬する時間
  • 出張先への移動時間(ただし、通常の出勤・退勤に要する時間以上にかかる部分に限る)
  • 複数の事業場を有する事業場で、他の事業場へ移動する時間(ただし、出勤・退勤に要する時間以上にかかる部分に限る)

接待

会社からの指示・命令による接待は、労働時間に該当する可能性が高いです。具体的には、以下のような行為が該当します。

  • 会社が指示して、取引先との接待に参加させる場合
  • 会社の商談業務として、得意先の接待ゴルフコンペや会食等に参加する場合
  • 接待への参加が、会社の業務として位置付けられている場合
  • 参加しないことで、人事評価などで不利益が生じる接待

一方で、従業員が自由意思で参加する個人的な飲み会や、自己啓発のための異業種交流会などは、労働時間に該当しない可能性が高いと言えます。

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労働時間と着替えについてよくある質問

労働時間と着替えについて、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。

Q
着替え時間は何分までなら労働時間に含まれない?
Q
パート・アルバイトの着替え時間も労働時間に含める?
Q
就業規則に「着替えは労働時間に含めない」と明記している場合は?

着替えを含めた労働時間の管理は勤怠管理システムで

これまで、労働時間と着替えの関係について、様々な角度から詳細に解説してきました。着替え時間が労働時間に該当するか否かは、業務との関連性、使用者の指揮命令下にあるかどうか、従業員の任意性など、多角的な視点から判断する必要があります。

また、着替え以外にも、始業前の準備や清掃、休憩時間中の電話当番、朝礼や研修、仮眠時間、移動時間、接待といった行為についても、労働時間に含まれる可能性があることを理解しておく必要があります。

しかし、多様な働き方が広がる現代において、労働時間の管理はますます複雑化しており、個々のケースにおいて、労働時間該当性を正確に判断することは容易ではありません。判断に迷うケースでは、社会保険労務士などの専門家のアドバイスを仰ぐことも必要でしょう。

併せてお勧めしたいのが、勤怠管理システムの導入です。勤怠管理システムを導入することで、従業員の労働時間を正確に把握し、法令に準拠した管理を効率的に行うことができ、労務管理担当者の負担を大幅に軽減できます。

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