出張手当は、企業にとって従業員の負担を軽減し、業務効率化を支える重要な制度です。一方で、「出張手当なしは違法なのか?」「支給額はいくらくらいに設定すべき?」など、具体的な導入や運用方法にお悩みの経営者や労務管理者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、出張手当に関する基本的な定義や目的から、相場や非課税となる条件、メリット・デメリット、制度設計のポイントまでをわかりやすく解説します。また、実務上よく寄せられる質問に対する回答もまとめていますので、是非参考にしてみてください。
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出張手当とは
出張手当は、従業員が勤務地から離れて業務を行う際に発生する費用を補償し、従業員の負担を軽減するために支給される手当です。日当と呼ばれることもあり、企業独自の制度に基づき支給基準や金額が設定されます。
法律上の明確な義務ではないものの、所得税法第9条第1項第4号において、業務上必要な出張費用が非課税となる条件が示されています。企業側では福利厚生やモチベーション向上の一環として導入されることが多く、税務上のメリットも期待できます。
出張手当の定義と目的
出張手当とは、従業員が通常の勤務地を離れて業務を行う際に、企業が支給する手当です。法律で支給が義務づけられているものではなく、会社ごとに独自の基準に基づいて支給条件や支給額を設定しています。
出張では、交通費、宿泊費以外にも、食事代、通信費、日用品の購入費など、様々な費用が発生し、従業員にとって経済的な負担となります。出張手当は、こうした負担を軽減し、従業員が出張中の業務に集中できる環境を整えることを目的としています。
また、出張は、慣れない環境での業務遂行や、家族などから離れることによる精神的負担も伴います。出張手当は、こうした負担に対する対価としての意味合いも持ち、業務遂行へのモチベーションを高める効果も期待できます。
出張経費との違い
出張手当と出張経費は、どちらも出張に関連する費用ですが、出張手当は出張に伴う諸雑費を補填するために定額で支給される手当であるのに対し、出張経費は出張に必要な交通費、宿泊費など、実際に発生した費用を実費精算するものです。
出張手当は、食事代、通信費、その他諸雑費など、領収書の取得が難しい、あるいは煩雑な費用を想定して、あらかじめ定められた金額を支給するものです。後ほど詳しく解説しますが、一定の条件を満たすことで非課税扱いとすることが可能です。
一方、出張経費は、出張に必要な交通費(新幹線、飛行機代など)、宿泊費、会議費など、実際に発生した費用を、領収書などの証憑書類に基づいて精算するものです。出張経費は通常、税務上の損金算入が可能です。
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出張手当の相場
出張手当の相場は、企業規模、役職、出張先(国内・海外)、宿泊の有無などによって異なります。一般的に、国内出張では日帰りが2,000~2,500円、宿泊を伴う場合が2,500~3,500円程度です。海外出張では地域によって異なり、北米で5,000円前後、中国で4,500円前後が目安とされています。
法律上、出張手当に明確な金額の規定はありませんが、役職が上がるにつれ、手当も増加する傾向にあります。国内では距離や滞在期間が金額に影響し、海外では地域ごとの物価が考慮されます。
国内出張と海外出張で異なる相場の違い
国内出張と海外出張では、手当の相場や基準が大きく異なります。産労総合研究所の「2019年度 国内・海外出張旅費に関する調査」によると、国内出張(日帰り/宿泊)と海外出張の日当(出張手当)の相場は、以下のとおりとなっています。
役職クラス | 国内出張(日帰り) | 国内出張(宿泊) | 海外出張 |
---|---|---|---|
一般社員 | 2,094円 | 2,355円 | 北米:4,913円 東南アジア:4,514円 欧州:4,881円 中国:4,514円 |
係長クラス | 2,224円 | 2,458円 | 北米:4,943円 東南アジア:4,563円 欧州:4,905円 中国:4,534円 |
課長クラス | 2,479円 | 2,711円 | 北米:5,308円 東南アジア:4,932円 欧州:5,273円 中国:4,888円 |
部長クラス | 2,666円 | 2,900円 | 北米:5,593円 東南アジア:5,226円 欧州:5,552円 中国:5,185円 |
の調査結果から、国内出張の日当は役職が上がるにつれて高くなる傾向にあり、海外出張の日当は国内出張よりも高額であることがわかります。相場を把握することで、従業員に適切な出張手当を支給し、モチベーションの維持・向上を図ることができます。
参考:2019年度 国内・海外出張旅費に関する調査|産労総合研究所
出張手当のメリット
出張手当を支給するメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 従業員の満足度が向上する
- 税金・社会保険料を軽減できる
- 人材確保に繋がる
従業員満足度が向上する
出張は、通常業務とは異なる環境での業務遂行であり、移動時間や慣れない環境、家族と離れることなど、従業員にとって肉体的にも精神的にも負担となることがあります。出張手当は、こうした負担に対する対価としての役割を果たし、出張へのモチベーションを高める効果があります。
また、出張中の食事代や雑費などの費用負担が軽減されることで、従業員は経済的な不安を感じることなく、業務に専念することができます。さらに、出張手当の支給は、従業員に対する「会社からの配慮」と感じられ、会社への帰属意識やエンゲージメントの向上にも繋がります。
税金や社会保険料を軽減できる
出張手当は、企業と従業員双方に税務上のメリットをもたらします。所得税法に基づき、適正範囲内であれば非課税扱いとなり、企業側では社会保険料の負担が削減されます。
出張手当は所得税法上、以下の要件に該当する範囲において非課税となります。出張手当が非課税となることで、企業は出張手当を経費として計上できるため、課税所得が減少し、法人税の負担が軽減されます。
- その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか
- その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか
また、出張手当は社会保険料の算定基礎となる報酬にも含まれないため、企業と従業員双方の社会保険料負担も軽減されます。
人材確保に繋がる
出張手当の導入は、優秀な人材の採用や定着に効果的です。福利厚生の一環として出張手当をアピールすることで、求職者に企業の魅力を伝える要素となります。
近年の求職者は、給与だけでなく、福利厚生の充実度も重視する傾向にあります。出張手当は、出張の多い職種を志望する求職者にとって、魅力的な福利厚生の一つです。
出張手当制度が充実している企業は、従業員の働きやすさを重視している企業として、求職者に好印象を与えます。また、出張手当の支給は、出張に伴う経済的負担を軽減し、従業員のモチベーション向上にも寄与するため、結果として離職率の低下にも繋がります。
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出張手当のデメリット
出張手当は多くのメリットをもたらしますが、以下のようなデメリットにも注意する必要があります。
- 費用負担が増加する
- 運用管理の手間が増える
- 経費として認められない可能性がある
費用負担が増加する
出張手当を導入することで、企業の費用負担が増加する場合があります。特に出張回数が多い場合や、支給額が一律で設定されている場合、コストが大幅に膨らむことがあります。
出張手当は、従業員に支給される金銭であるため、当然ながら企業の費用となります。出張する従業員が多ければ多いほど、また、出張頻度が高ければ高いほど、出張手当の総支給額は増加します。
さらに、出張手当は一般的に日当として支給されるため、出張日数に応じて費用が増加します。長期の出張や、遠方への出張が多い企業では、出張手当の負担が特に大きくなります。
出張の多い企業では、出張手当の総額が経営に与える影響を考慮し、出張の必要性を精査したり、出張手当の金額を適切に設定したりするなどの対策を講じる必要があります。
運用管理の手間が増える
出張手当の運用には、規定の作成や支給基準の設定、従業員への周知などが必要です。これにより、管理部門にかかる負担が増加する場合があります。
出張手当を支給するためには、まず出張旅費規程を整備する必要があります。出張旅費規程には、出張手当の支給対象となる出張の定義、出張手当の金額、申請・承認手続き、精算方法などを明確に定める必要があります。
また、出張の都度、従業員は出張申請書を提出し、上長の承認を得る必要があり、経理担当者は、出張申請書に基づき、出張手当の計算・支給を行います。出張後は、出張報告書や領収書などを確認し、出張経費の精算を行う必要があり、これらの業務は出張の頻度が高いほど煩雑になります。
近年では、出張申請・承認・精算業務を効率化するために、出張管理システムを導入する企業が増えています。出張管理システムを導入することで、出張申請・承認のペーパーレス化、出張手当の自動計算、出張経費の精算業務の効率化などが実現できます。
経費と認められない可能性がある
支給される出張手当が適正な範囲を超えている場合や、業務に直接関係しないと判断された場合、経費として認められないリスクがあります。この場合、手当は課税対象となり、企業および従業員にとって追加の負担が生じます。
税務調査では、出張手当の支給実態が詳細に調査されます。出張旅費規程が整備されていない、出張の事実が確認できない、出張手当の金額が社会通念上妥当な金額を超えている、といった場合、出張手当が経費として認められず、追徴課税を受けるリスクがあります。
特に、役員に対する出張手当は、厳しく審査される傾向があります。役員への出張手当が不相当に高額であると判断された場合、役員賞与とみなされ、損金不算入となる可能性があります。
出張手当を経費として計上するためには、出張旅費規程を整備し、出張の事実を証明する書類(出張申請書、出張報告書、領収書など)を適切に保管しておくことが重要です。
また、出張手当の金額は、同業他社の水準や従業員の役職などを考慮し、社会通念上妥当な金額を設定する必要があります。税務調査で否認されないよう、出張手当の支給に関しては、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
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出張手当の決め方のポイント
出張手当を適切に設定するためには、明確な「出張旅費規程」を作成し、距離や役職に応じた支給基準を設けることが重要です。また、不正受給を防止するための対策を講じることで、制度運用の透明性と公平性を確保できます。
出張旅費規程を作成する
出張旅費規程は、出張に関するルールを定めた社内規程です。出張旅費規程を作成することで、出張手当の支給基準や申請・承認手続きが明確になり、出張手当の支給に関する従業員との間のトラブルを未然に防ぐことができます。
また、出張旅費規程は、税務調査の際にも重要な書類となります。出張旅費規程が整備されていれば、出張手当の支給が経費として認められる可能性が高くなります。
出張旅費規程には以下の項目を含めると効果的です。
目的: 出張旅費規程の目的を記載します。
適用範囲: 出張旅費規程が適用される従業員の範囲を記載します。
出張の定義: 出張とみなす業務の範囲、距離、時間などを定義します。
出張手当の種類: 日当、宿泊費、交通費など、出張手当の種類を記載します。
出張手当の支給基準: 出張の距離、時間、役職などに応じた出張手当の金額を記載します。
出張の申請・承認手続き: 出張申請書の提出方法、承認者、承認フローなどを記載します。
出張中の費用: 出張中に発生する交通費や、宿泊費などの上限について記載します。
出張報告: 出張報告書の提出義務、提出先、提出期限などを記載します。
出張旅費の精算方法: 出張旅費の精算方法、領収書などの証憑書類の提出方法などを記載します。
その他: 特別の出張(海外出張など)に関する規定や、出張旅費規程の改廃に関する事項などを記載します。
出張手当と距離:支給基準の決め方
出張手当を設定する際は、出張距離に応じて出張手当の金額に差をつけることで、出張に伴う従業員の負担に見合った、公平な出張手当を支給することができます。
出張距離が長くなるほど移動時間が長くなり、交通費や宿泊費などの費用も増加し、従業員にとって肉体的・精神的な負担も大きくなります。そのため、出張距離に応じて出張手当の金額に差をつけることで、出張に伴う従業員の負担に見合った、公平な出張手当を支給することができます。
- 距離に応じた手当の例
- 50km以上: 日帰り手当(2,000円)
- 100km以上: 宿泊手当(3,500円)
- 500km以上: 長距離手当(5,000円)
なお、出張先が物価の高い地域である場合や、海外出張の場合は、出張距離に関係なく、出張手当の金額を特別に設定することがあります。
不正受給対策をする
手当支給の透明性を確保し、不正受給を防止するためには、厳格なチェック体制が必要です。業務に関係のない費用が含まれると、課税対象となるリスクがあります。
出張手当の不正受給は、企業に経済的な損失を与えるだけでなく、従業員のモラル低下や企業イメージの悪化にも繋がります。不正受給の例としては、架空の出張申請、出張日数の水増し、領収書の偽造などが挙げられます。
不正受給防止のための具体策として、以下が有効です:
- 支給前の申請書類の確認
- GPSを活用した出張行程記録
- 出張後の詳細な報告書提出ルールの導入
- 定期的な内部監査の実施
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出張手当についてよくある質問
出張手当について、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。
- Q出張手当なしは違法?
- A
出張手当は法律で支給が義務づけられているわけではないため、出張手当なしでも直ちに違法となるわけではありません。ただし、出張中に発生する交通費や宿泊費、その他必要経費を従業員に自己負担させることは、労務トラブルの原因になる可能性があります。
出張は業務の一環であるため、出張に必要な費用は、原則として企業が負担すべきものです。出張にかかる交通費や宿泊費などの実費を従業員に負担させることは、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に違反する可能性があります。
- Q出張中の移動は労働時間?
- A
出張中の移動時間が労働時間に該当するかどうかは、移動中に従業員が業務を行っているかどうかによります。業務指示に基づく移動(例: 顧客訪問のための移動)は労働時間に該当しますが、移動中に自由な時間を過ごしている場合は労働時間には含まれません。
労働基準法上の労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」 と解され、出張中の移動時間が労働時間に該当するかどうかは、この解釈に基づいて判断されます。
出張先への往復の移動時間は、単なる移動であって、業務そのものではないと考えられるため、労働時間には含まれない場合が多いです。
しかし、移動時間中に、上司から具体的な業務の指示を受け、資料作成やメール対応などをしている場合は、労働時間とみなされる可能性があります。また、移動そのものが業務とみなされる場合(物品の運搬など)は、労働時間に含まれます。
- Q出張手当は残業代計算に含める?
- A
出張手当は、基本的には残業代の計算基準には含まれません。これは、出張手当が労働の対価ではなく、実費補填や慰労のための手当であるため、労働基準法上の賃金には該当しないとされています。
ただし、出張手当という名称であっても、その実態が労働に対する対価と認められる場合(例えば、出張先での業務量に応じて出張手当の金額が変動する場合など)は、残業代の計算基礎に含めなければならない可能性があります。
出張手当の管理はシステム化で効率的に
出張手当は、企業の労務管理において重要な制度の一つです。従業員の金銭的負担を軽減し満足度を向上させる、税務上のメリットが得られるなどのメリットがある一方で、費用負担の増加や運用管理の手間などのデメリット・注意点も存在します。
さらに、出張手当の適切な決定には、「出張旅費規程」の作成や、距離や役職に基づく公平な支給基準の設定が必要です。不正受給を防止する対策も重要であり、明確な手続きや監査体制の整備が欠かせません。
このように、出張手当は企業の負担だけでなく、従業員のモチベーションや会社の信頼性に大きく影響する制度です。したがって、各企業は現状の手当運用を見直し、法的な側面や実務上の効率性を考慮した改善を図ることが求められます。
効果的な出張手当制度の運用には、適切な勤怠管理が欠かせません。最新の勤怠管理システムを導入すれば、運用負担の軽減や不正受給の防止、税務リスクの回避が可能になります。
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