事業場外みなし労働時間制は、社外勤務により労働時間の算定が困難な場合に、一定の時間分労働したものとみなして労働時間を管理する制度です。

この記事では、事業主や管理者の方向けに、事業場外みなし労働時間制の適用要件や残業代の取り扱いについて、わかりやすく解説します。

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事業場外みなし労働時間制とは

事業場外みなし労働時間制とは、外回りの営業職やツアーガイドなど、事業場外(社外)で業務を行うため、労働時間の算定が困難な場合において、あらかじめ決められた時間分を労働したものをみなす制度です。

「みなし労働時間制」と呼ばれる制度のうちの一種であり、みなし労働時間制にはこの事業場外みなし労働時間制の他に、「専門業務型裁量労働制」及び「企画業務型裁量労働制」という2つの裁量労働制があります。

みなし労働時間制の種類

あらかじめ決めた時間分、働いたとみなす

あらかじめ決められた時間を「みなし労働時間」と呼び、たとえばみなし労働時間を8時間と定めた場合は、実際の労働時間に関係なく8時間労働したものとして取り扱われます。

つまり、実労働時間が6時間で業務が終了しても賃金控除が行われず8時間分の給与が保証される反面、実労働時間が10時間に及んでも基本的に残業代は支払われないということになります。

事業場外みなし労働時間制の適用要件

事業場外みなし労働時間制を採用するには、以下の要件をどちらも満たしている必要があります。

  • 会社の外で業務に従事していること
  • 労働時間の算定が困難であること

【条件1】会社の外で業務に従事していること

常に事業場外で業務を行っている必要はなく、たとえば外まわりを終えた後に事務処理などのために帰社して社内で業務を行う場合は、外まわりの業務部分についてのみみなし労働時間が適用されます。

【条件2】労働時間の算定が困難であること

業務中に管理者の指揮監督が及んでいるかについて、個別具体的に判断されます。そのため、以下のようなケースは「労働時間の算定が困難である」とは言えず、事業場外みなし労働時間制は適用できません。

  • 労働時間を管理する権限を持つ者が同行している
  • マニュアルや工程表により具体的な業務内容・作業手順が指示されている
  • 携帯電話などの通信機器により、常時指示を受けたり報告を命じられている
  • 自宅勤務やテレワークにおいて、PCのログイン情報やWebカメラなどにより、勤務状況が監視されている

特に近年においては、携帯電話などを所持せず、または会社からの通信を遮断した状態で業務を行うことが稀であるため、事業場外みなし労働時間制の適用が認められる余地は少なくなっているとされます。

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事業場外みなし労働時間制の労働時間

事業場外みなし労働時間制におけるみなし労働時間の設定は、大きく以下の3パターンがあります。

  • 「所定労働時間分」労働したものとみなす
  • その業務の遂行には通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合には、「その通常必要とされる時間分」労働したものとみなす
  • 通常必要とされる時間を「労使協定で定めたときは、その時間分」労働したものとみなす

いずれにしても、みなし労働時間が適用されるのはあくまでも事業場外の業務に対してのみであり、帰社後の内勤など労働時間の把握が可能な状態の労働時間は、実労働時間として別途管理する必要があります。

「所定労働時間分」労働したものとみなす

会社の就業規則等に定められた所定労働時間と同じだけ、労働したものとみなします。実労働時間と所定労働時間に大きな乖離がない場合は、このパターンを採用することになります。

突発的に所定労働時間を超える場合があっても、平均して概ね所定労働時間に近いようであれば、所定労働時間分の労働として扱って差し支えありません。

所定労働時間分労働したものとみなす場合は、その旨を就業規則へ記載する必要があるものの、労使協定の締結は不要です。

「通常その業務を遂行するのにかかる時間分」労働したものとみなす

実際の業務の遂行にかかる時間が、明らかに所定労働時間を超えるような場合は、このパターンを採用することになります。たとえば、所定労働時間が7時間の事業場において、対象となる事業場外業務にかかる時間が8時間である場合は、8時間をみなし労働時間として設定します。

みなし労働時間と実労働時間の乖離がどこまで認められるか、という行政通達などはありませんが、1時間程度に収めるのが無難と言えます。

なお、このパターンでは、「通常必要とされる時間」を労使協定で定めることもできます。この労使協定においては、①対象とする業務、②みなし労働時間、③有効期間を定める必要があります。

さらに、ここで設定したみなし労働時間が法定労働時間を超える場合は、36協定を締結して管轄労働基準監督署に届け出る必要があります。

事業場外みなし労働時間制で残業代が発生するケース

事業場外みなし労働時間制は、実労働時間が法定労働時間の適用を受けないため、基本的には時間外割増賃金(残業代)は発生しません。ただし、以下のケースにおいては残業代(各種割増賃金)が発生します。

  • みなし労働時間が法定労働時間を超えている
  • みなし労働時間と事業場内の実労働時間の合計が、法定労働時間を超えた
  • 休日労働や深夜労働が発生した

みなし労働時間が法定労働時間を超えている

「通常その業務を遂行するのにかかる時間分」労働したものとみなすパターンにおいて、設定したみなし労働時間が法定労働時間の8時間を超えている場合は、その超過分の時間外割増賃金(残業代)が発生します。

たとえば、みなし労働時間を9時間半と設定した場合は、超過した1時間半分につき、通常賃金に加えて25%以上の時間外割増賃金を上乗せした時間外手当を支払わなければなりません。

みなし労働時間と事業場内の実労働時間の合計が、法定労働時間を超えた

労働時間の算定が可能である事業場内の業務については、みなし労働時間が適用されません。よって、外回りの営業などから帰社後に事業場内で業務を行った時間と、みなし労働時間との合計が法定労働時間を超えた場合は、超過分の時間外割増賃金が発生します。

休日労働や深夜労働が発生した

事業場外みなし労働時間制でも、休日出勤や深夜労働に関しては、通常の定時制と同じく割増賃金を支払わなければなりません。

法定休日に労働が発生した場合は、35%以上の休日割増賃金の支払いが必要です。そして、この休日労働の時間については、みなし労働時間ではなく「実労働時間」で計算する必要があります。

なお、法定外休日労働の労働時間については、特に休日労働についての取り決めがなかった場合はみなし労働時間分働いたと扱われます。

また、深夜労働(22時~翌朝5時)が発生した場合には、その時間帯の実労働時間数に応じて25%以上の深夜割増賃金を支払う必要があります。このように、みなし労働時間は休日労働や深夜労働には適用されないため、注意が必要です。

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事業場外みなし労働時間制を適用できない労働者

事業場外みなし労働時間制は、一般的な要件を満たしている場合であっても、年少者や妊産婦には適用できないとされています。年少者とは満18歳に満たない者を指し、妊産婦とは妊娠中の女性または産後1年を経過しない女性を指します。

年少者や妊産婦は、労働基準法において保護規定が置かれ、深夜業や時間外労働が制限されます。時間外労働については、年少者には行わせることができず、妊産婦は本人から請求があった場合は行わせることができません。

みなし労働時間制は、「労働時間を柔軟に捉える」制度という面もあるため、みなし労働時間を適用してしまうと、上記の保護規定がなし崩しになってしまいます。よって、年少者及び妊産婦については、事業場外みなし労働時間制の対象とすることはできないとされています。

なお、この適用除外については、ほかのみなし労働時間制である「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」についても、同じように扱われます。

事業場外みなし労働時間制の運用は勤怠管理システムで

事業場外みなし労働時間制は、残業代の計算が楽になるとはいえ、労働時間の把握が必要なくなるわけではなく、休日労働や深夜労働への対応や長時間労働へのケアが必要となります。

また、適切なみなし労働時間を設定するには、勤怠管理システムによる定量的な分析が非常に有効です。みなし労働時間制をスムーズな運営に、勤怠管理システムは不可欠です。

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