働き方改革の一環として2019年4月より導入された高度プロフェッショナル制度ですが、まだまだ導入事例は少なく(令和3年3月末時点で20社ほど)、また裁量労働制との違いも分からないという声をよく聞きます。

この記事では、高度プロフェッショナル制度の導入の要件や運用上の注意点などを解説しつつ、裁量労働制との違いについても分かりやすく解説します。

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高度プロフェッショナル制度とは

高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門知識及び職業能力を有する労働者に対する完全成果型労働制です。

もう少し噛み砕いて説明すると、一定の条件を満たす労働者については、労働時間という概念を取り払って、仕事の成果に対して賃金を支払うという制度です。

背景としては、同じ仕事に対して、生産性が高く時間内に終わらせられる労働者よりも、生産性が低く時間外労働が発生する労働者のほうが賃金が高くなってしまうという問題がありました。

この生産性と労働時間のジレンマを解決するために、労働時間と賃金を切り離し、完全成果報酬型の働き方を実現することを目的に、2019年4月の働き方改革関連法案施行に合わせて導入されました。

高度プロフェッショナル制度の対象職種

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、高度な専門的知識を要し、業務に従事した時間と成果との関連性が強くない、以下の5業種の業務・職種に限定されています。

  • 金融商品の開発業務
    • ⾦融⼯学、統計学、数学、経済学等の知識をもって確率モデル等の作成、更新、これによるシミュレーションの実施、結果の検証等の技法を駆使した新たな⾦融商品の開発の業務
  • 金融商品のディーリング業務
    • ⾦融知識等を活⽤した自らの投資判断に基づく資産運⽤の業務⼜は有価証券の売買その他の取引の業務
  • 市場動向等のアナリスト業務
    • 有価証券等に関する⾼度の専門知識と分析技術を応⽤した分析・評価を⾏い、その結果に基づいて運⽤担当者等に対し有価証券の投資に関する助⾔を⾏う業務
  • 事業コンサルティング業務
    • 企業の事業運営についての調査・分析、事業・業務の再編、⼈事等社内制度の改⾰など経営戦略に直結する業務改⾰案等を提案し 、その実現に向けてアドバイスや⽀援をしていく業務
  • 研究開発業務
    • 新たな技術の研究開発、新たな技術を導⼊して⾏う管理⽅法の構築、新素材や新型モデル・サービスの研究開発等の業務

対象業務が上記のように限定されているのは、本来成果報酬型にそぐわない業務まで対象とするような、使用者による制度の濫用を防止するためです。

高度プロフェッショナル制度の対象者

高度プロフェッショナル制度の対象とできる労働者は、前記の対象業務に従事する労働者のうち、以下のいずれの要件も満たす労働者です。

  • 職務内容を職務記述書にて明らかにした上で、個別に合意していること
  • 年収が1,075万円以上であること

使用者と労働者の合意については、職務記述書の中で「業務の内容」「責任の程度」「求められる成果」のすべてについて、明らかにした上で取り交わす必要があります。

年収については、確実に支給が見込まれる賃金・手当のみを含むものとし、賞与であっても勤務成績や成果に応じて変動する部分については含まれません。

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高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリット

高度プロフェッショナル制度は、制度の趣旨に沿った運用が行われていれば、労使双方にメリットがある制度ですが、裏返しとも言えるデメリットも存在します。

高度プロフェッショナル制度のメリット

高度プロフェッショナル制度のメリットとして、主に以下の3つが挙げられます。

  • 生産性向上につながる
  • 評価の不公平感が無くなる
  • ワーク・ライフ・バランスが実現する

生産性向上につながる

実労働時間が賃金に反映されないため、労働者は効率性を追求し短時間で仕事を終わらせようとするため、生産性が上がります。
企業にとっても、残業代狙いの無駄な時間外労働がなくなり、人件費が安定します。

評価の不公平感が無くなる

仕事の成果に対して賃金が支払われるため、仕事の質が高い労働者ほど評価も高くなります。
仕事が遅いにもかかわらず、その分残業代が出るために賃金が高くなるという、仕事の質と賃金のミスマッチが起こりにくくなり、評価に対する不公平感が無くなります。

ワーク・ライフ・バランスが実現する

労働時間による拘束がないため、出退勤や休暇の取得は労働者の裁量に委ねられます。
よって、ライフスタイルや家庭の事情に合わせて業務量を調整でき、ワーク・ライフ・バランスが実現できます。

高度プロフェッショナル制度のデメリット

高度プロフェッショナル制度のデメリットとして、主に以下の3つが挙げられます。

  • 長時間労働につながりやすい
  • 深夜割増賃金・休日割増賃金がつかない
  • 評価が難しい

長時間労働につながりやすい

完全成果報酬型であるということは、求められる成果を出せない限りは仕事が終わらないということでもあります。

通常の労働者であれば、成果に関係なく労働基準法の保護を受けられますが、高度プロフェッショナル制度の対象者には、労働時間を始め、休憩、休日、深夜労働の割増賃金に関する規定が適用されません。

年間104日の休日付与、年間5日の有給休暇付与の義務はあるものの、長時間労働を招く恐れが高く、対象労働者の健康管理には注意が必要です。

深夜割増賃金・休日割増賃金がつかない

高度プロフェッショナル制度の対象者は、労働基準法に規定されている休日及び深夜労働に対する割増賃金も支給されません

同じように労働時間や休日の規定が適用除外となる管理監督者でさえ、深夜労働に対する割増賃金は支給されることを考え合わせると、保護に欠けるという声もあります。

評価が難しい

高度プロフェッショナル制度の対象となっている業務は、いずれもある程度長期的なスパンで成果が出るものであり、すぐに評価に結びつきにくいという面があります。

また、実際に評価をする使用者側にも、成果に対して正確な評価をするだけの査定能力や明確な評価基準が求められます。

そのため、評価基準や評価体制があいまいなまま導入してしまうと、成果が正当な評価に結びつかない恐れがあります。

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高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い

高度プロフェッショナル制度とよく比較または混同される制度に、裁量労働制があります。
両者には、労働時間と業務量の調整を労働者に委ねるという共通点はあるものの、対象となる労働者や割増賃金の取り扱いなど、以下のような大きな違いがあります。

対象業務の違い

裁量労働制には専門業務型と企画業務型があり、それぞれの対象業務は異なります。

専門業務型の対象業務は、情報処理システムの分析・設計やデザイナー、税理士など「業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難な20業務」とされています。

企画業務型の対象業務は、「事業の運営に関する企画、立案、調査、分析の業務であって、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしない業務」とされています。

いずれも、高度プロフェッショナル制度の対象業務より広く解され、また対象者の年収要件もありません

労働時間の違い

裁量労働制はみなし労働時間制の一類型であるため、実労働時間に関わらず、あらかじめ設定したみなし労働時間分労働したものとして取り扱います。

よって、基本的には時間外労働に対する割増賃金は発生しませんが、以下の場合には例外的に時間外割増賃金が発生します。

  • 設定したみなし労働時間が、1日の法定労働時間である8時間を超えている
  • みなし労働時間の週の合計が、週の法定労働時間である40時間を超えている

この点が、時間外割増賃金が一切発生しない高度プロフェッショナル制度との大きな違いです。

各種割増賃金の違い

高度プロフェッショナル制度は、労働時間及び休憩、休日、深夜労働の割増賃金に関する規定が適用されないため、時間外割増賃金・深夜割増賃金・休日割増賃金のいずれも発生しません。

一方で裁量労働制は、休日や深夜労働に関する規定は適用されるため、法定休日の労働に対しては休日割増賃金が、深夜22時から翌5時までの労働に対しては深夜割増賃金が、それぞれ発生します。

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高度プロフェッショナル制度導入の要件と注意点

ここまで見てきたように、高度プロフェッショナル制度は、労働者を保護するための規定の多くが適用除外となるため、導入には厳格な手続きが求められ、運用上も必要に応じて対象労働者の健康管理に関する措置を講じなければなりません。

導入の手続き

高度プロフェッショナル制度の導入の流れは、以下のとおりです。

  1. 労使委員会を設置する
    • 労使委員会とは、労働者と使用者の代表委員により構成される委員会で、委員の半数以上は労働者代表である必要があります
  2. 労使委員会にて委員の5分の4以上の決議により決定する
    • 「対象業務」「対象労働者の範囲」「決議の有効期間」などを決議します
  3. 決議内容を労働基準監督署長に届け出る
  4. 対象労働者から書面にて同意を得る
    • 「労働時間などの規定が適用されないこと」「対象となる期間」「対象期間中に支払われると見込まれる賃金額」について明らかにする必要があります
  5. 対象労働者を対象業務に就かせて運用を開始する
    • 労使委員会の決議から6ヶ月以内ごとに「健康管理時間の把握」「休日の付与」「選択的措置及び健康・福祉確保措置」について、労働基準監督署長に報告する必要があります

休日、有給休暇について

高度プロフェッショナル制度の対象労働者には、基本的に労働基準法の休日に関する規定は適用されません。

ただし、対象労働者の健康管理の観点から年間104日以上、かつ4週間を通じ4日以上の休日を確保する必要があります。

また、有給休暇に関する規定は適用除外ではないため、付与日数や時季指定権などは他の労働者と同様に扱う必要があり、年間5日の取得義務の対象でもあります。

選択的健康確保の措置

高度プロフェッショナル制度導入に際しては、長時間労働抑制のために、以下のいずれかの措置を実施する必要があります。

  1. 勤務間インターバルの確保及び深夜労働の制限
    • 勤務間インターバルは11時間以上、深夜労働は月に4回以内とする必要があります
  2. 時間外労働の上限設定
    • 週40時間を超えた時間の合計が、1か月について100時間以内、または3か月について240時間以内とする必要があります
  3. 1年に1回以上の連続2週間の休日付与
    • 本⼈が請求した場合は、連続1週間の休日を2回以上付与しても差し支えありません
  4. 臨時の健康診断

いずれの措置を実施するかは使用者の判断によりますが、対象労働者の意見を聴くことが望ましいとされています。

健康管理時間の把握及び状況に応じた措置

高度プロフェッショナル制度の対象労働者の健康維持の観点から、健康管理時間の状況に応じて以下のいずれかの措置を講ずる必要があります。

なお、健康管理時間とは、対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間の合計時間のことで、使用者は客観的な方法で対象労働者の健康管理時間を把握する必要があります。

  1. 選択的措置のうち、いずれかの追加措置
    • 既に選択的措置として決議した措置以外のものに限ります
  2. 医師による面接指導
    • 週の健康管理時間が40時間を超えた時間が1か⽉当たり100時間を超えた対象労働者については、労働安全衛⽣法に基づき⼀律に、医師による⾯接指導を実施しなければなりません
  3. 代償休日または特別な休暇の付与
  4. 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
  5. 適切な部署への配置転換
  6. 産業医等による助言指導または保健指導」

高度プロフェッショナル制度は、勤怠管理システムとセットで導入

高度プロフェッショナル制度は、要件が限定的であるため、実際の導入事例は少ないのが現状です。

導入を検討する際は、成果に対する正当な評価制度の確立など留意すべき点が多くあります。
また、労働基準法の規定の多くが適用外になるとは言え、労働時間とは別に健康管理時間の把握は必要であり、有給休暇は他の労働者と同じように取り扱わなくてはなりません。

そのため、制度を適切に運用するためには、アナログな勤怠管理ではなく、システムによる勤怠管理が不可欠となります。

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