「残業代は30分単位で支給し、30分未満の時間は切り捨てとする」。このような就業規則の定めは無効であり、賃金未払いの違法状態が発生していることになります。
では、残業代は何分単位で支払うのが正しいのでしょうか?また、就業規則はどのように改めれば良いのでしょうか?
この記事では、残業代を計算する上でのこうした疑問について、わかりやすく解説します。
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30分単位の残業代計算は労働基準法違反!就業規則も無効
労働時間は1分単位で記録・集計する必要があります。日々の労働時間を30分単位でまるめて切り捨てることは、労働基準法第24条に規定する「賃金全額払の原則」に違反し、認められません。つまり、切り捨てられた時間分の賃金支払義務を果たしていないことになるわけです。
たとえ就業規則に「残業代は30分単位で支給し、30分未満の時間は切り捨てとする」のような規定を設けていても、法の基準を下回ることはできないため無効です。このように、当事者の合意や内部規則よりも優先される法の規定を「強行法規lと呼びます。
賃金全額払の原則とは
賃金全額払いの原則とは、使用者は支払日に確定している賃金を全額支払わなければならないという原則で、根拠条文は労働基準法第24条1項です。
(賃金の支払)
労働基準法第24条1項|法令検索e-Gov
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
但書で例外的に控除が認められているのは「法令に基づく源泉徴収や社会保険料」及び「労使協定に基づく社宅や組合費用など」に限定され、端数の切り捨ては認められていません。
30分単位の切り上げは認められる
30分単位の切り捨てが認められないのは、実労働分の賃金が支払われないことにより、労働者の不利益になることが理由です。よって、反対に労働時間を切り上げることは、労働者に有利となるため差し支えありません。
たとえば、1~29分を30分に、31~59分を1時間に、それぞれ切り上げる処理は、全面的に労働者に有利になるため、当然認められます。
30分単位での切り捨てを放置すると罰則も
労働基準法第24条違反に該当する労働時間の切り捨て処理は、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
また、労働時間を切り捨てたことにより残業代の未払いが発生した場合は、労働基準法第37条(割増賃金)違反に問われ、6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられる可能性もあります。
さらに、未払い残業代をめぐって労働訴訟に発展した場合は、まず会社の言い分が認められることはありません。社会的信用低下やブランドイメージ失墜を招き、今後の企業経営は大変厳しい状況に追い込まれます。
30分単位の労働時間切り捨ては、労働者が被る不利益の度合いが大きく、裁判所から未払い残業代に加えて同額の付加金の支払いを命じられることもあります。つまり、支払額が2倍になってしまう恐れもあるのです。
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1ヶ月における集計では30分単位で切り捨て可能
ここまで、日々の労働時間を切り捨てることは認められないことをお伝えしてきましたが、月単位では、行政通達(昭和63年3月14日付通達 基発第150号)により、以下の処理が認められています。
「1ヶ月における時間外労働・休日労働・深夜労働の時間」について、30分以上1時間未満の時間を1時間に切り上げ、30分未満の時間を切り捨てること
これは事務簡略化のために認められる処理であるため、30分未満を切り捨てておきながら、一方で30分以上は切り上げずにそのままの時間を採用することは、当然認められません。
また、この例外処理の対象となるのは、あくまでも割増賃金の対象となる「時間外労働・休日労働・深夜労働」の時間についてのみです。よって、時給制のパート・アルバイトなどの通常の労働時間は、1ヶ月通算であっても1分単位で計算しなければなりません。
なお、通常とは労働時間の管理が異なる変形労働時間制やフレックスタイム制においても、端数処理については同じ扱いをすることになっています。
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30分単位の残業について、就業規則の記載内容をチェック
管理の都合上、30分単位で残業申請の提出や時間外労働を命じている事業場もあるでしょう。30分単位での残業を就業規則に明記していた場合、どのような場合が有効・無効と判断されるでしょうか?具体例を交えながら記載内容に関してチェックしていきます。
就業規則が有効とされる例
残業時間を30分単位で運用していても、実際に残業代を計算する際の集計が1分単位で正しく計算してあれば問題ありません。たとえば、以下のような規定が考えられます。
- 30分単位で時間外労働を命じることがある
- 残業申請は30分単位で行うものとする
このように管理の都合上、残業命令や残業申請の単位を30分単位とすることはよくあります。この場合、実際に稼働した時間が切り捨てられることなく、1分単位で残業代計算されているのであれば差し支えないと言えます。
就業規則が無効とされる例
- 30分未満の時間外労働は切り捨てるものとする
- 18時から18時30分の間は残業時間に算入しない
前者は労働時間の切り捨てを明確に謳っており、当然無効です。後者は残業時間に算入しない時間帯を設けており、間接的に労働時間を切り捨てています。
特定の時間帯を「休憩時間」として明記していない限り、労働時間にカウントしない時間帯を設けることは認められません。
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30分単位の残業計算でよくある質問
30分単位の残業計算に関して、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。
- Q遅刻・早退は30分単位でカウントできる?
- Q深夜労働や休日労働は30分単位でカウントできる?
- Q時間単位年休は30分単位で取得できる?
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無駄な残業を発生させないためにも勤怠管理システム導入がおすすめ
15分単位の切り捨ては、労働基準監督署によっては正当な理由があれば許容される可能性があります。しかし、30分単位の切り捨ては労働者が被る不利益が大きく、認められる可能性はほとんどありません。
一方、労働者側からしても30分単位でしか残業代が出ない場合、業務効率化へのモチベーションは高まりません。「本来15分で終わる作業も30分かけて終わらせよう」という心理に陥り、無駄な拘束時間が生まれやすくなります。
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