従業員から労災の申請があった場合、実際に給付が認められるかといういわゆる認定基準は、事業主としても気になるところだと思います。
特に、外見から状態を判断しやすく発生日時もハッキリしている怪我の場合と異なり、精神疾患の労災認定は判断が困難なケースが多くなっています。
この記事では、近年相次いで行われた法改正の内容を踏まえ、最新の労災認定基準について、わかりやすく解説します。
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労災とは?業務災害と通勤災害
労災(労働災害)とは、業務または通勤途中に発生した怪我・病気・障害・死亡などの災害を指します。労災のうち、業務に起因するものを業務災害、通勤に起因するものを通勤災害と呼びます。
使用者は、業務災害による療養の費用を負担する義務を負い、また従業員が就業できない状態となった場合は、休業補償として療養中平均賃金の60%を従業員に支払う必要があります。この補償を補填するための仕組みが、労災保険(労働者災害補償保険)です。
従業員を一人でも雇用している事業主は、基本的に労災保険に加入しなければなりません。労災保険の保険関係が成立している事業場に使用される労働者は、正社員、アルバイト・パート、契約社員などの雇用形態に関わらず、労災保険の適用を受けることになります。
なお、労災保険は、雇用保険など異なり事業場単位で加入するため、被保険者という概念がありません。
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労災の認定基準とは?誰が認定する?
実際に発生した災害が労災に該当するかどうかは、認定基準に従って所轄労働基準監督が個別に判断します。労災の認定基準は、業務遂行性と業務起因性の有無によって判断されます。
業務遂行性とは
業務遂行性とは、その災害が使用者の指揮命令下または管理下において発生したかどうかを指します。
所定の就業場所における所定労働時間中の災害はもちろんのこと、以下の場合も一般的に業務遂行性が認められます。
- 始業前及び就業後の着替え、準備、後片付け
- 事業場内における休憩中
- 出張の移動中や宿泊中
- 事業場専用の送迎バスなどを利用した通勤
- 使用者主催の歓送迎会、社員旅行、運動会など
業務起因性とは
業務遂行性が認められることを前提に、その災害が業務により現実化したか、つまり従業員の怪我・障害・死亡との間に、業務との関連性があるかを指します。
就業中の場合
就業中での負傷や病気は、基本的に業務起因性が認められています。ただし、恣意的に事故を起こした場合や私的行為、業務逸脱行為、天変事変などは、たとえ就業中であっても認められません。
休憩中の場合
休憩時間は労働者に「自由利用の原則」があるため、基本的に休憩中の行動は私的行為と考えられ、業務起因性は認められないことになります。
ただし、事業場施設の不備または管理上の欠陥による場合は、業務起因性が認められる可能性が高くなります。
出張中の場合
出張は、自宅を出発してから帰宅までが業務の範囲内にあるとされ、私的行為や恣意的行為などの反証が無い限り、広く業務起因性が認められます。
緊急業務中の場合
事業場において、火災や天災に見舞われた場合に、その消火活動や救出活動に当たる行為は、使用者の命を受けているか否かに関わらず「緊急業務」として扱われます。
よって、緊急業務中に自らも負傷した場合などは、業務起因性が認められます。
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精神障害の労災認定基準|長時間労働やパワハラはどう判断される?
精神障害は、以下の3つの要素を複合的に判断します。
- 業務による心理的負荷:業務中の事故や災害体験、仕事の失敗、業務環境の変化など
- 業務以外の心理的負荷:個人的な悩み、家庭内事情、金銭トラブルなど
- 個体側要因:既往歴、アルコール依存症など
精神障害の認定要件
以下の3つの要件をすべて満たすことが必要です。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したと認められないこと
1. 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
国際疾病分類における精神障害の分類コード(F0~F9)のうち、「F0:認知症などの器質性精神障害」「F1:アルコールや薬物による精神障害」を除いたものが該当します。
業務に関連するものとしては、「F3:うつ病」や「F4:急性ストレス反応」などが代表例と言えます。
分類コード | 疾病の種類 |
---|---|
F0 | 症状性を含む器質性精神障害 |
F1 | 精神作用物質使用における精神および行動の障害 |
F2 | 統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害 |
F3 | 気分障害 |
F4 | 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害 |
F5 | 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群 |
F6 | 成人のパーソナリティ及び行動の障害 |
F7 | 精神遅滞(知的障害) |
F8 | 心理的発達の障害 |
F9 | 小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害 |
2. 発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
心理的負荷の強度(強・中・弱)は、被災した労働者が主観的にどう受け止めたかではなく、職責や年齢などが類似する同種の労働者が一般的にどう受け止めるかによって判断されます。
以下のような事例は「特別な出来事」とされ、それだけで心理的負荷は「強」と判定されます。
- 生死に関わる業務上の病気・負傷をした
- 業務上、他人を死亡させた
- 業務に関連する性犯罪に遭った
- 極度の長時間労働があった
「特別な出来事」に該当しない場合でも、業務による出来事を「具体的出来事」(厚生労働省の「精神障害の労災認定・別表1」に掲載)に当てはめて、強度を判定します。
「具体的出来事」が複数ある場合は、それぞの関連性や時間的な近接程度などにより、総合的に判定することになります。
3. 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したと認められないこと
離婚や身内の不幸、金銭トラブル、天災、友人トラブルなどは、業務とは無関係の心理的負荷であり、認定が否認される要因となります。
また、精神障害の既往歴がある、アルコール依存症であるなど個体側に要因がある場合も、不認定の要因となります。
長時間労働の認定基準は?
以下の場合は「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」に該当し、心理的負荷は「強」と判定されます。
- 発病直前1ヶ月における、おおむね160時間以上の時間外労働
- 発病直前3週間における、おおむね120時間以上の時間外労働
また、発病前1ヶ月~3ヶ月の間に以下の長時間労働があった場合は、「具体的出来事」として心理的負荷が「強」と判定されます。
・発病直前の連続2ヶ月間に1月あたり、おおむね120時間以上の時間外労働
・発病直前の連続3ヶ月間に1月あたり、おおむね100時間以上の時間外労働
さらに、長時間労働と関連する他の出来事を複合的に捉え、心理的負荷が「強」と判定される場合もあります。一例を挙げると、転勤後の新たな業務について、月100時間程度の時間外労働があった場合などが該当します。
パワハラの認定基準は?
パワハラは職場上の地位や人間関係の優位性を活用し、同じ職場で働く部下や同僚に肉体的・精神的苦痛を与える行為です。業務の適正な範囲を超えているかどうかが、重要なポイントです。
2020年6月に労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)が改正され、精神障害の心理的負荷要因としてパワハラが明記されました。
具体的には、「出来事の類型」として「パワーハラスメント」の項目が追加され、心理的負荷の強度を判断する具体例が示されました。
たとえば、人格や人間性を否定するような精神的攻撃や治療を要するほどの暴行を受けた場合などは、心理的負荷は「強」と判断されます。
管理職にはコンプライアンス研修の受講を勧奨するなど、ハラスメントへの意識やマネジメントスキル向上への取り組みが欠かせません。また、部下と定期的に個別面談をおこない、コミュニケーションの活性化や信頼関係の構築に努めておくことも重要です。
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勤怠管理システム導入で長時間労働を抑制
会社は労働者に対する安全配慮義務があります。業務上の負傷や疾病に関しては、責任を負わなくてはなりません。また、長時間労働に起因する労災認定については、基準が明確に示されています。
心理的負荷が強いまたは過労死と認定される長時間労働は避けなければいけません。仮に従業員の過労死がSNSやマスメディアで報道されると、社会的信用の低下やブランドイメージの悪化を招きます。
勤怠管理システムを導入すると、従業員の勤怠状況をリアルタイムで把握できます。残業過多となっている従業員へ個別にケアができ、過重労働を未然に防げる点がポイントです。
「勤怠管理システムの選定・比較ナビ」をご利用いただくと、必要な要件を満たしている選択肢から、自社に最もマッチングするシステムを探し出せます。低コストでハイスペックな機能を搭載している勤怠管理システムを多数扱っている点も、うれしいポイントです。
労災によるトラブルを避けるためにも、勤怠管理システムの選定・比較ナビを是非ご利用ください。
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