近年、コロナ禍における短期的な雇用調整や異業種間の繁忙の差を埋める手段として、「兼務出向」という働き方が注目されています。

そもそもどのような働き方で、どんなメリットが有るのでしょうか?また、違法性はないのでしょうか?

この記事では、こうした疑問にお答えしながら、制度導入のポイントについて、わかりやすく解説します。

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兼務出向(部分出向)とは

兼務出向とは、出向のうち労働者が出向元企業との雇用関係を維持したまま、出向先とも雇用関係を結び、双方において就業するものを指し、「部分出向」とも呼ばれます(本記事では「兼務出向」で統一します)。

そもそも「出向」とは、出向元企業と出向先企業との間で交わされる出向契約に基づいて、労働者が出向先企業と新たな雇用契約を結ぶことを言います。

兼務出向は、「1週間のうち3日は出向元、2日は出向先」「月の前半は出向元、後半は出向先」などといった形で、2つの企業で仕事を掛け持ちしている状態です。

コロナ禍などで人員削減を余儀なくされた企業の雇用調整策や、繁忙の時期が異なる異業種間における人材活用法として利用されています。

一般的には2パターン

出向元・出向先それぞれの繁忙の違いに応じて、一般的には以下の2パターンがあります。

  • 週単位・曜日区切りで兼務:(例)月・火・水はA社で勤務、木・金はB社で勤務
  • 月単位で兼務:(例)月初・月末はA社で勤務、それ以外はB社で勤務

兼務出向の違法性は?

出向について直接規定した法律はないため、主に行政通達に従って運用することになります。

出向元・出向先双方と雇用関係がある以上は、使用者の権利の濫用に該当しない限りは、兼業出向という形態も問題なく、特に違法性を問われるものではありません

在籍出向とどう違う?

兼務出向と在籍出向の主な違いは、出向元における就業の有無です。

労働者が出向元との雇用関係を維持したまま、新たに出向先とも雇用契約を結ぶことになるという点においては、兼務出向も在籍出向と変わりありません。

ただし、在籍出向の場合は、出向期間中の出向労働者は出向先でのみ就業し、出向元で就業することはありません。

派遣とどう違う?

派遣の場合、雇用契約は派遣元と派遣労働者との間でのみ発生し、派遣先との間では発生しません。

派遣先は、派遣労働者に対して業務に関する指揮命令権を有しますが、基本的に雇用契約に関する事項(賃金や休暇など)には直接関与できません。

兼業とどう違う?

兼業は、就業規則等で認められた兼業(副業)の範囲内で、労働者自らの意思によって複数の事業場で就業することと指します。

出向契約に基づく兼務出向と異なり、基本的に就業先となる双方の会社が相互に関与することは、ほぼありません

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兼務出向のメリット

兼務出向によって得られるメリットを、出向元・出向先・労働者、個々の立場ごとにまとめました。

出向元のメリット

出向元が得られるメリットは、人件費を削減しつつ優秀な人材の流出を防げる点です。出向元での勤務日数を削減し、賃金や社会保険の負担額を削減できます。

業務量の増減に応じて出向先と相談しながら勤務のペースを決められるため、無駄な費用が発生する心配もありません。

出向先のメリット

出向先が得られるメリットは、労働力不足解消と即戦力の人材獲得を同時に実現できる点です。期間は限定されているものの、出向者に対して比較的長いスパンで業務を任せられます。

兼務出向の活用によって最小限の手間で人材を獲得でき、採用に掛かる費用や手間を削減できます。業務量の増減に応じて仕事を任せられるため、人件費を必要以上に支払う必要もありません。

また、基本的に出向者に選ばれる労働者は、豊富な実務経験や優れたスキルを持っている方が多いです。出向元は今後のビジネスを考え、他社でも活躍できる人材を出向者に選択します。

優秀な人材が社内に入ることで他の従業員に刺激を与えられ、組織全体のパフォーマンスアップや業務効率化が期待できます。

労働者のメリット

労働者が得られるメリットは、スキルアップにつながる点です。新たな環境でこれまでの異なる業務内容に励むことで、新しい知識やスキルを習得できます。ビジネスマンとしての可能性を拡げられ、今後のキャリア形成にもよい影響をもたらします。

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兼務出向のデメリット

兼務出向によって生じるデメリットを、出向元・出向先・労働者、それぞれの立場でまとめました。

出向元のデメリット

出向元が被るデメリットは、出向者の労働時間や有給休暇の管理が煩雑になる点です。週・月の半分近くを出向先で勤務するため、過重労働にならないよう配慮する必要があります。また、1日8時間・週40時間を超える労働を命じた場合、割増賃金の支払いが必要です。

時間外労働・深夜労働・休日労働によって適用する割増率は異なるため、正確な算出が求められます。正確な給与計算を実現するためにも、自社勤務時の労働時間を正確に把握しておくことが重要です。

出向先のデメリット

出向先のデメリットは、出向者を長期的な戦力として計算できない点です。兼務出向の場合、いずれは出向元に戻ることを前提にしています。長くても出向期間は3年程度でしょう。労働力不足を一時的に緩和している状態に過ぎないため、抜本的な対策が必要です。

また、出向者が優秀であればあるほど、出向先に戻った後の穴埋めが難しくなります。出向者が在籍している間に、業務の正確性とスピードを高いレベルで保てるよう、業務プロセスの改善が重要になります。

労働者のデメリット

労働者が被るデメリットは双方で勤務する形態のため、心身に大きく負担がかかる点です。出向元での業務をこなしながら、新しい環境や仕事に適応しないといけません。出向元と出向先で業務内容が全く異なる場合、慣れるまでに多くの時間を必要とします。

労働者に大きな負担がかかるため、出向元と出向先が丁寧にサポートすることが重要です。また、過重労働に陥らないよう、勤怠状況を細かくチェックする必要があります。睡眠時間やリラックスできる時間を十分に確保できないと、疲労が抜けません。

ストレスが発散できず自律神経のバランスが乱れ、頭痛・吐き気・めまいなど、複数の症状に悩まされます。過重労働が原因で休職や退職とならないよう、出向元と出向先の双方が勤怠状況を正確に把握する姿勢が重要です。

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グループ子会社内・グループ外で意味合いが異なる

グループ会社や子会社へ兼務出向が実施される場合、人事戦略や組織再編の一環でおこなわれます。親会社で働く従業員が子会社に出向して管理職や役員として働き、組織の活性化に努めます。

一方、外部企業へ兼務出向をおこなう場合、短期での雇用調整を目的に利用するのが一般的です。成功事例を作ると労働者の流動性が高まり、ワークシェアリングや事業提携など、今後のビジネスにもよい影響をもたらします。

兼務出向の労務管理上の注意点

兼務出向は在籍出向と異なり、出向元と出向先双方で労務の提供が発生します。在籍出向とは異なる労務管理が求められます。主に、以下5点がポイントとなります。

  • 労働条件を明確化する
  • 労働時間の通算管理
  • 年次有給休暇
  • 社会保険の負担
  • 労災保険と雇用保険の負担

労働条件を明確化する

出向先と出向元での所定労働日・労働時間・業務内容など、労働条件を明確化した上で、対象労働者に出向を打診する必要があります。

休職や退職、解雇など、雇用契約上の身分に関する事項は、基本的には出向元の規定によることになります。

また、休憩や休日、懲戒などに関する事項は、労働基準法の基準を下回らない範囲で、それぞれの規定に従うことになります。トラブルにならないよう、あらかじめ双方でしっかり確認しておきましょう。

労働時間の通算管理

労働時間は、双方で通算管理して、出向元にて集約・統括するのが一般的です。時間外労働については、労働基準法第38条の規定に従って、双方の労働時間を通算します。

出向前の時点で通算して法定労働時間を超えている場合

出向元と出向先の所定労働時間を通算した時間が、出向元の労働時間制における法定労働時間を超えていた場合は、出向先の法定外労働時間として計算することになります。

たとえば、出向元・出向先ともに1日の所定労働時間8時間、出向元で週3日、出向先で週3日就業するケースで考えると、週の法定労働時間を超える6日目の8時間は出向先の36協定及び割増率に基づいて精算します。

ただし、出向先の企業において36協定の締結・届出が行われているのが前提で、かりに36協定の締結・届出が済んでいない場合、出向先で時間外労働は命じられません。

出向後の実労働時間が法定労働時間を超えた場合

双方の所定外労働時間を、その所定外労働時間が発生した順に通算し、出向元の労働時間制における法定労働時間を超えていた場合は、それぞれ自社で生じた法定外労働時間について割増賃金を支払うことになります。

兼務出向における年次有給休暇

年次有給休暇の付与日数は、出向元における継続勤務年数に基づいて付与されます。繰り越し日数がある場合は、繰り越し分も含めた形で付与します。

2019年度から施行されている5日間の有給休暇取得義務は、基本的には出向元が負います。ただし、出向元・出向先・労働者の間で、別途取り決めをしても問題ありません。

兼務出向における社会保険

基本的には、出向元において被保険者資格を有するため、納付義務は出向元事業主が負います。実際の事業主負担分の保険料については、就業割合に応じて負担するのが一般的です。

兼務出向における労災保険・雇用保険

労災保険は、出向元・出向先双方において適用があり、労災事故発生時には発生した事業場における労災が適用されることになります。

雇用保険料に関しては、双方の賃金割合に応じて納付額を負担し、それぞれが納付手続きを行います。

兼務出向で「産業雇用安定助成金」は受給できる?

産業雇用安定助成金は新型コロナウイルス感染拡大に伴い、事業縮小を余儀なくされている企業が利用できる助成金です。雇用維持を目的におこなう出向が適用対象です。

兼務出向も在籍出向と類似する就業形態であるため、「産業雇用安定助成金」を受給できます。受給するためには、以下の要件をいずれも満たす必要があります。

  • 同一日に出向元及び出向先双方において勤務をしないこと
  • 出向先で勤務する1ヶ月間の日数は、出向元で規定されていた所定労働日数の半分以上であること

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兼務出向は過重労働に注意

兼務出向は労働力を柔軟に調整できる制度です。人件費削減・優秀な人材の獲得・労働力不足解消など、出向元・出向先双方に大きなメリットをもたらします。

反面、労働時間や有給の取得状況管理が煩雑になります。出向契約時の取り決めが曖昧だと、対象労働者に過重労働を強いる結果になりかねません。複数事業場における労働時間の通算が可能な勤怠管理システムの導入によって、管理の負担も軽減できます。

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