法改正によって、罰則付きの「時間外労働の上限規制」が定められ、特別条項についても細かく上限を設定する必要があり、従来よりも36協定違反になるリスクが高まっています。36協定違反にならないようにするには、あらゆる36協定違反例を事前に知っておくことが必要です。
この記事では、36協定違反になる典型的なケースとその防止策、万が一違反してしまった場合の善後策について解説します。
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36協定に違反すると罰則対象に
従来、「時間外労働の上限規制」に対する罰則は規定されていませんでしたが、2019年4月からの改正法施行によって、36協定違反に関して第119条に規定する罰則が適用されるようになりました。
労働基準法は、労働者のさまざまな権利(生存権)を保障するための法律で、労働者の賃金、労働時間、有給休暇・休日、労働契約や労働条件などに関して細かく規定しています。また、労働基準法第119条では、各条文に違反した場合の罰則が定められています。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
労働基準法第119条第1項|法令検索 e-Gov
一 第三条、第四条、第七条、第十六条、第十七条、第十八条第一項、第十九条、第二十条、第二十二条第四項、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十六条第六項、第三十七条、第三十九条(第七項を除く。)、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者
36協定とは?
36協定とは「時間外・休日労働に関する協定届」の通称で、労働基準法36条に規定されていることから、「36協定(さぶろくきょうてい)」と呼ばれています。
労働者に対して法定労働時間を超えて時間外労働や休日労働をさせる場合には、事業所ごとにあらかじめ労使間で36協定を締結しなければなりません。
臨時的な特別の事情により、原則の時間を超えて労働させる必要がある場合は、労使が合意した特別条項を設定し、以下の時間内で時間外労働が可能です。
- 年720時間まで
- 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
- 時間外労働と休⽇労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」の全てが、80時間以内
- ⽉45時間を超える時間外労働ができるのは、年6回まで

法改正により違反に問われやすくなった
2019年4月(中小企業は2020年4月)の法改正前より、「時間外労働の上限」は、厚生労働大臣の告示によって規定されていましたが、罰則による強制⼒はありませんでした。
そのため、特別条項で決定する時間は努力義務的な意味合いで設定されていたケースが多く、実質的には「上限のない残業」が可能な状況でした。つまり、特別条項の上限時間は努力義務に過ぎず、社内外からも青天井の残業が黙認されていたわけです。
しかし、法改正により、罰則付きの「月45時間・年360時間(1年単位の変形労働制は月42時間、年320時間)」となり、特別条項の基準が数値として細かく明文化されました。
これによって、労働基準監督署は、36協定違反に該当するケースについて、明快に違反を問えるようになったのです。
36協定に違反した場合の罰則は?
36協定違反に対する罰則は「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」です。
36協定違反はいつ発生しても不思議ではありませんが、表面化していないケースも少なくありません。しかし、労働者からの内部告発や、社外の第三者から報道機関や出版社への情報リークなど、36協定違反が明るみになると、労働基準監督署が動くことになります。
労働基準監督署は、該当企業と該当労働者の勤務実態を調査し、軽過失による違反であれば、まずは「是正勧告」を実施します。これは、あくまでも「勧告」ですので、いきなり処罰とはなりません。
しかし、是正勧告を無視したり労働事故に発展したりなど、悪質と判断されると「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられます。
また、書類送検となった場合は、「労働基準法違反についての送検事例」に基づき、企業名が公表されるため、企業の社会的信用は著しく失墜します。
罰則を受けるのは会社だけではない
罰則対象となるのは、基本的には36協定違反となる行為を行った使用者本人、つまり違法残業を指示したり手続きを怠ったりした管理監督者です。
しかし、以下の労働基準法第121条1項(両罰規定)により、使用者が事業主のために違反行為に及び、かつ事業主も違反防止に努めなかった場合は、事業主も罰金対象となります。
第百二十一条 この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。ただし、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者又は成年被後見人である場合においてはその法定代理人(法定代理人が法人であるときは、その代表者)を事業主とする。次項において同じ。)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。
労働基準法第121条|法令検索 e-Gov
② 事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰する。
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36協定違反となるケース
36協定違反には、さまざまなケースが考えられます。例えば、「36条の規定そのものに関して違反している」「労働時間の原則を定めた32条に違反している」「割増賃金を定めた37条に違反している」などが考えられます。
36協定違反の善後策を図っていくために、それぞれのケースを把握しておくことは重要であり、本記事のメインテーマになります。典型的な36協定違反となるのは、以下の4つのケースです。
- 36協定なしで残業させた
- 時間外労働が上限時間を超過した
- 時間外労働に対する割増賃金を払っていなかった
- 36協定締結時の労働者代表選出が不当であった
36協定なしで残業させた
36協定が締結・届出されていない状態で、法定労働時間を超える残業になっているケースです。
法定労働時間を超えて1分でも時間外労働させるためには、労使間で36協定を締結し労働基準監督署に届け出なければなりません。
確かに、法定労働時間を超える残業がない場合は、36協定の締結は必要ありません。しかし、以下のような会社では、36協定なしの状態のままで違反につながるリスクが高くなります。
- 経営者が職場実態を把握せず「残業なし」と認識し、36協定を締結していない
- 険悪な労使関係によって、36協定そのものが合意できていない
36協定届は、労働基準監督署に届け出たときから法定時間外労働が認められるものの、過去の違法な時間外労働まで遡って有効になるわけではありません。
また、時間外労働に対して割増賃金を支払っていたとしても、36協定なしの時間外労働の違法状態が免責されるわけでもありません。
時間外労働が上限時間を超過した
36協定は締結されているものの、特別条項が設けられていない状態で、原則の上限時間を超える労働が発生したケースです。
特別条項のない状態で、月45時間・年360時間(1年単位の変形労働制は月42時間、年320時間)を超えることは違法になります。
36協定は簡単に言うと、「例外」と「例外の例外」の二段階で構成されています。一般条項は法定時間を超える時間外労働に対しての「例外」であり、特別条項は上限基準を超える時間外労働に対しての「例外の例外」になります。
また、特別条項を設けた場合でも、設定した上限時間を超えるのは違法です。例えば「時間外労働と休日労働の合計を80時間」と定めた場合は、法が規定する100時間未満ではなく、80時間が上限ラインとなるため注意が必要です。

時間外労働に対する割増賃金を払っていなかった
36協定に規定した時間外労働は超過していないものの、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないケースです。
時間外労働に対しては25%以上、休日労働に対しては35%以上の割増賃金が発生し、これらを支払うことなく時間外労働・休日労働させた場合は違法となります。
また、月60時間を超える時間外労働分については、50%以上の割増賃金が必要(ただし、中小企業は2023年4月から適用)です。
なお、使用者が労働者に残業代(割増賃金)を支払っていても、36協定の締結と届出をせず、労働者に時間外労働や休日労働をさせた場合は違法となります。36協定の締結と割増賃金の支払自体は全く別の規定ですが、それぞれのルールを遵守する必要があります。
36協定締結時の労働者代表選出が不当であった
そもそも過半数組合の要件を満たしていない、もしくは過半数代表者の選出が不適切な場合、36協定を締結し労働基準監督署に届出しても、その36協定は無効になります。
当然、この無効な36協定に基づいて行われた時間外労働・休日労働は違法です。労働者の過半数代表の要件は、以下のとおりです。
- 管理監督者でないこと
- 挙手や投票などの民主的な方法により選出されたこと
- 使用者の指名や意向による選出ではないこと
また、「過半数」の要件は、正社員だけではなくパートタイマーやアルバイトなど事業場全ての労働者の過半数である必要があります。特に、使用者の意向が色濃く反映した代表者との間で締結された36協定は無効となるため、適正な方法によって36協定を締結する必要があります。
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36協定に違反してしまった場合の対処法
36協定違反が直ちに「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」の罰則対象となるケースは多くありません。ただし、36協定違反が社内で発覚した場合は、きちんとした善後策をとるのが大切です。
特に、36協定が設けられていても、形式を整えているだけで完全に形骸化しており、適切に運用されておらず実効性のない協定では、違反に問われる可能性が高くなります。
自ら報告義務はないが、労基署に対する回答義務はあり
会社が36協定違反を認識した場合、労働基準監督署などに対して、会社自らが報告しなければならないという義務はありません。
ただし、労働基準監督署の監督官は会社に対して調査を行い、報告を求める権限があります。一方、会社は労働基準監督署に対して、調査への協力と報告をする義務があります。
当然ながら、労働基準監督署の調査プロセスにおいて、組織単位での隠ぺい工作や虚偽の報告などは、即罰則に発展するのはいうまでもありません。
報告義務はないとしても、社内で再発防止の検討や是正をしっかり実践し、改善の方向にもっていく企業風土の醸成が大切です。
労働者には通報権限がある
労働基準法において労働者の権利は保障されており、労働者は会社の労働基準法違反について、その違反内容を労働基準監督署に申告(通報)できる権限があります。36協定違反についても、労働者はいつでも通報可能です。
労働者から通報を受けた労働基準監督署は必要に応じて調査を行い、適切な処分を行います。昨今のコンプライアンス遵守の風潮もあり、公益通報者保護制度などで通報者に対する不利益な取扱いは禁止されており、労働者がより通報しやすい環境になっています。
会社は、36協定違反はいつでも起こり得るという前提で、労働者単位で細かく時間外労働および休日労働を管理しなければなりません。
36協定違反が発覚したら
36協定違反が発覚したら、会社は直ちに改善措置を取らなければなりません。違反内容を検証した結果、36協定や就業規則の見直しが必要であれば、それぞれ早急に変更しましょう。
対象労働者へのフォローアップを行うとともに、労働基準監督署の調査が入った場合は積極的に協力しなければなりません。
「計算ミスで上限を超過していた」など、一度の軽過失による違反であれば、即処罰の対象とはならないケースが多いです。しかし、再発防止を怠り、36協定違反を繰り返したり、あるいは違法状態を放置しないように注意が必要です。
36協定に違反しないためにも勤怠管理システム導入を
情報化による労働者の意識向上に法改正も相まって、36協定違反の状態が許されなくなりました。36協定違反は労働事故に直結することが多いため、単なる罰金にとどまらず、民事による損害賠償請求や企業名公表による社会的ダメージも計り知れません。
特に上限時間の超過などは、勤怠管理システムを適切に導入していれば防止可能です。思わぬ36協定違反を防止するためにも、勤怠管理システム導入をおすすめします。
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