一口に残業代と言ってもさまざまな種類が存在し、勤務形態や勤怠状況によって、発生条件や割増率が異なります。
残業代の支払いをめぐる労使トラブルは多く、最悪の場合は未払い賃金訴訟に発展する可能性もあります。一方で、計算ミスで余分に残業代を支払っていたとしても、後から取り戻すことはできません。
こうした事態を避けるために、残業代の定義や正しい計算方法をしっかり押さえておく必要があります。この記事では、事業主や管理者の方向けに、残業代の基本的なルールについてわかりやすく解説します。
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残業代(割増賃金)とは
一般的に言われている「残業代」には2つの意味が含まれます。1つは、割増賃金の付かない法定内残業(所定外残業)に対する賃金。もう1つは、割増賃金が発生する法定外残業・休日労働・深夜労働に対する賃金です。
これを理解するためには、まず「法定内残業」と「法定外残業」の違いを知っておく必要があります。
所定外残業と法定外残業
労働時間には、労働基準法に定められた「法定労働時間」と、就業規則などで会社が独自に定めた「所定労働時間」があります。
法定労働時間は、1日8時間・週40時間とされており(例外については後述)、どちらかでも超えると「法定外残業」となり、その超えた時間に対して25%以上の割増賃金(時間外割増賃金と呼びます)が発生します。
つまり、1日7時間労働であっても、週6日勤務だと週の合計が42時間となり、超過した2時間分の割増賃金が必要となります。週休2日制の会社が多い理由が、ここにあります。
これに対して所定労働時間は、会社が独自に定めた労働時間で、始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を除いた時間となります。通常は、法定労働時間内に収まるように設定されます。
所定労働時間を超えた労働に対しても残業代は発生しますが、法定労働時間を超えるまでは「法定内(所定外)残業」であり、割増賃金は発生しません。つまり、所定労働時間が7時間の会社で1時間の残業が発生した場合は、1時間分の基礎賃金を支払うことになります。
月60時間超の時間外割増賃金
月の時間外労働が60時間を超えた場合、通常の時間外割増賃金に更に25%以上を加算、つまり50%以上の割増賃金を支払う必要があります。ただし、労働者が希望した場合には、50%増の割増賃金の支払に代えて、有給の代替休暇を付与することも可能です。
なお、この50%増の割増賃金の規定は、以前は大企業にのみ適用され中小企業には適用猶予されていましたが、2023年4月1日からは、中小企業にも適用されていため注意が必要です。
法定労働時間と時間外割増賃金の例外
法定労働時間には、以下のようにさまざまな例外規定が存在します。
- 週の法定労働時間が緩和される「特例措置対象事業場」
- 時間外労働の定義が異なる「変形労働時間制」「フレックスタイム制」「裁量労働制」
- そもそも時間外労働が発生しない「管理監督者」「高度プロフェッショナル制度」
特例措置対象事業場(週44時間業種)
週の法定労働時間について、従業員数が常時10人未満の小売業や接客娯楽業などは「特例措置対象事業場」とされ、週の法定労働時間が44時間となります。なお、1日の法定労働時間8時間については、業種などによる例外はありません。
変形労働時間制
変形労働制は、一定の期間内の「週の平均労働時間」が法定労働時間に収まるように、繁忙に応じて労働時間を変動させる制度です。特定の日や週の労働時間が法定労働時間を超えても、期間内の週平均労働時間が超過していなければ時間外割増賃金は発生しません。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、一定期間に総枠として定められた労働時間の範囲内で、日ごとの始業時間及び終業時間の設定を労働者に委ねる制度です。つまり、日によって何時間労働するのかを、労働者が決めることになります。
フレックスタイム制においては、日単位や週単位で労働時間を判断しないため、期間内の実労働時間が総枠労働時間を超過しない限り、基本的には時間外労働とはなりません。
裁量労働制
裁量労働制は、みなし労働時間制の一種で、実労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間分を労働したものとみなす制度です。裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制があり、対象業務や導入手続きが異なります。
裁量労働制では、実労働時間と法定労働時間が切り離されているため、原則的には時間外労働が発生しません。ただし、そもそも設定したみなし労働時間が法定労働時間を超えている場合は、常に時間外労働が生じることになります。
高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度は、高度な専門知識及び職業能力を有するなど、一定の条件を満たす労働者については、労働時間という概念を取り払って、仕事の成果に対して賃金を支払うという制度です。よって、時間外割増賃金・休日割増賃金・深夜割増賃金のいずれも発生しません。
管理監督者
労働基準法第41条に定められた管理監督者に該当する労働者には、労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されません。ただし、その労働者が本当に管理監督者に該当するのかは、職名などにとらわれず慎重に判断する必要があります。
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深夜割増賃金とは
深夜22時から翌5時までの労働に対しては、25%以上の深夜割増賃金が発生します。この深夜割増賃金は、労働時間数ではなく「労働時間帯」に着目した割増賃金であるため、夜間シフトなどで22時から業務を開始する場合は、最初から深夜割増賃金が加算されることになります。
通常の時間外労働と重複した場合はどちらも加算され、たとえば朝からの勤務が深夜に及んだ場合は、法定労働時間を超えた時間からは25%以上、22時を超えた時間からは50%以上の割増賃金が発生することになります。
なお、先程時間外労働の例外としてご紹介したフレックスタイム制や管理監督者の場合でも、深夜労働に関しては等しく適用されるため、深夜割増賃金が発生することになります。
休日割増賃金とは
法定休日に労働があった場合、その時間に対しては35%の休日割増賃金が発生します。一方で、所定休日に労働があっても休日割増賃金は発生しません。ここでも、「法定休日」と「所定休日」の定義が重要となります。
法定休日と所定休日
法定休日とは、労働基準法に定められた、「週1日もしくは4週間に4日」企業が社員に対して与えなければならない休日のことです。一般的には日曜日が法定休日と定めている企業が多いですが、必ずしも日曜日を法定休日にしなければならないことはありません。
法定休日の労働に対しては、休日割増賃金として35%増しの賃金を支払う必要があります。たとえその週の平日の労働時間と休日労働時間の合計が40時間以内であったとしても、休日割増賃金は関係なく発生します。
所定休日(法定外休日)とは、法定休日とは別に会社が定めている休日のことを指します。所定休日と法定休日を合わせて「公休」と呼ぶ場合もあります。
所定休日の労働は、労働基準法上の休日労働には該当せず、休日割増賃金は発生しません。ただし、所定休日に労働したことで週の総労働時間が40時間を超えた場合は、通常の時間外割増賃金が発生することになります。
振替休日と代休
振替休日と代休は、ともに本来休日であった日に労働する代わりに別途労働日を休みとするものです。一見同じように思えますが、申請の時期により休日割増賃金の支払いに違いが出てきます。
振替休日の場合は、事前申請によりあらかじめ所定労働日と休日を入れ替えるものです。本来休日であった日は振替により休日ではなくなっているため、休日出勤としては扱われず、休日割増賃金は発生しません。
一方で代休は、法定休日に労働をしたあとで、代わりに別の労働日を休日として取得するものです。先に休日労働が発生していることになるため、休日割増賃金の対象となります。
時間外割増賃金と休日割増賃金・深夜割増賃金との関係
休日労働は時間外労働とは切り離されているため、休日労働を何時間行っても時間外労働は発生しません。たとえば、既に週の総労働時間が40時間に達している状態で休日労働があっても、発生するのは休日割増賃金のみということになります。
一方で、深夜割増賃金と休日割増賃金は同時に発生します。ただし、休日は「暦日(0~24時)」で考えるため、休日の労働が深夜に及んだ場合、22時までは35%以上の休日割増賃金、22時から24時までは60%(35+25)以上の割増賃金が発生することになります。
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割増賃金の1時間当たりの基礎賃金の計算方法
時間外労働や深夜労働、休日労働の割増賃金を計算するにあたり、1時間当たりの基礎賃金額は労働基準法により以下の計算方法で定められています(労働基準法37条1項)。
給料制 | 計算方法 |
時間制 | その金額 |
日給制 | その金額を一日の所定労働時間数で割った金額。但し、日によって所定労働時間数が異なる場合には、1週間における1日の平均所定労働時間数で割る。 |
週給制 | その金額を週の所定労働時間数で割った金額。但し、週によって所定労働時間数が異なる場合には、4週間における1週の平均所定労働時間数で割る。 |
月給制 | その金額を月の所定労働時間数で割った金額。但し、月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月の平均所定労働時間数で割る。 |
週、月以外の期間によって定められた賃金 | その金額をその期間の所定労働時間数で割った金額 |
出来高払制等 | 賃金締切期間の賃金総額をその期間の総労働時間数で割った金額 |
残業管理は勤怠管理システムがおすすめ
残業時間の管理は、どこからが時間外労働になるのか、休日労働になるのはどのような場合か、などさまざまな要素が絡んでくるため、手作業やExcelなどによる管理には限界があります。
勤怠管理システムを導入することで、法に則った正しい労働時間を算出でき、給与データへの反映も一括で行えます。
勤務実態に応じた労働時間を正確に計算するためにも、勤怠管理システムの導入をおすすめします。「勤怠管理システムの選定・比較ナビ」は、多くの勤怠管理システムから自社にマッチした最適なシステムを見つけ出せるサイトです。
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