女性従業員から妊娠報告を受けたら産休を取得してもらうことになりますが、「産休」には産前休業と産後休業の2種類があります。管理者としては、それぞれいつからいつまで取得できるのか押さえておき、適切に対応しなければなりません。

また、妊娠中の検診のために設けられた「通院休暇(妊娠休暇)」についても、どういったタイミングで取得できるのか、2023年4月から50万円に引き上げられる出産育児一時金などについても、対象従業員の方にきちんと説明できるようにしておきたいところです。

この記事では、産前・産後休業の管理方法をはじめ、妊娠中の従業員に対する労務管理上の注意点について解説します。

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産休には産前休業と産後休業がある

産前休業と産後休業の内容は、労働基準法第65条に規定されています。

(産前産後)
第六十五条 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
② 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
③ 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

労働基準法第65条|法令検索 e-Gov

産前休業の場合は、本人の申請によって期間が変わってくるため、出産に支障が無い範囲でギリギリまで業務を任せることが可能です。

一方、産後休業は基本的に産後8週間経過するまでは、職場復帰をさせてはいけません。これは、出産で消耗した心身を回復するための期間として定められているためです。違反した場合は罰則(6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が課せられる可能性があります。

産前休業は請求があれば付与

出産予定日6週間前から取得できる休暇です。出産当日は産前休業に含まれるため、予定日と実際の出産日にズレが生じた場合でも、取得日から出産当日までが産前休業として計算されます。双子以上の多胎妊娠の場合は、母体への負担が大きいため、14週間前から取得可能です。

また、産前休業の申請時期は従業員に委ねられているため、申請のない限りは出産直前まで業務に就かせても問題ありません。企業にとっては産後の引継ぎ体制を確立でき、優秀な従業員が抜ける穴を最小限に抑えられます。

一方、従業員にとっては収入減少や社会的接点を失う不安を軽減できるため、双方にとってメリットが望めます。ただし、突然体調不良に陥る可能性も考えられるため、自己管理の徹底と無理のない範囲で業務を行う必要があります。

突然産前休業に入り、同じ部署で働く同僚への負担が大きくならないよう、コミュニケーションを活発に交わすことが重要です。

産後休業は必ず付与

産後休業は、出産翌日から8週間は仕事への復帰が原則禁止となります。従業員から申し出が無かった場合でも、必ず取得させなければなりません。

ただし、産後6週間が経過した女性従業員が職場復帰を希望した場合のみ、医師が認める範囲で業務を命じることが可能です。「出産日翌日」から起算されるため、予定日からズレが生じた場合でも取得日数に変動はありません。

なお、産前休業・産後休業の対象となる「出産」には、流産・早産・中絶も含まれているため、注意が必要です。

産休の対象となる従業員

産前休業・産後休業は、雇用形態・勤務形態・雇用期間に関わらず、取得させなければなりません。これは、労働者保護規定というより母性保護規定の側面が強いためです。アルバイト・パート・在宅勤務者など、全ての女性従業員が取得可能です。

また、労働時間や休憩時間などの規定が除外される管理職であっても、産前休業・産後休業は適用されます。

産休中の有給取得は可能?

原則として有給休暇は取得できません。有給休暇は、心身の回復やワークライフバランス改善のため、本来労働義務のある日に賃金を保障しつつ休暇を認める制度です。

一方で、産前休業や産後休業は、母性保護の観点から法によって労働義務が免除されています。労働義務が無い日に有給休暇が成立する余地は無いため、産休中の有給休暇は取得できないのです。事前にこういったことを従業員へ丁寧に説明し、トラブルを回避することも重要です。

ただし、産前休業については強制休業ではないため、事前に従業員から「産前休業の代わりに有給休暇を使用したい」旨の申し出があった場合は、有給休暇を適用できます。

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妊娠中の通院休暇とは

妊娠中の従業員から健康診査の要望があった場合、企業側は移動時間を含めて通院時間を十分に確保する義務があります(男女雇用機会均等法第12条)。 厚生生労働省が標準とする妊婦健診の期間及び頻度は、以下のとおりです。

期間頻度
妊娠発覚~23週まで4週間に1回
妊娠24週~35週2週間に1回
妊娠36週~出産日1週間に1回
保健指導又は健康診査を受けるための時間確保

通院休暇の申請方法やどういった単位(全日/半日/時間)で付与するのか、通院日の給与の発生有無や計算方法などは、各企業の判断に委ねられています。取得時間を指定する場合は、単なる受診時間だけでなく、移動時間や待ち時間も考慮して十分な時間を確保する必要があります。通院休暇を「妊娠休暇」や「妊産婦健康診断休暇」の名称で運用されている企業もいらっしゃるようです。

なお、妊娠中の従業員の主治医から上記よりも多いペースでの通院指示があった場合や、休業や入院が必要と診断された場合は、診断内容に沿った適切な対応が必要となります。

体調を正確に把握するため、通院時に「母性健康管理指導事項連絡カード」を医師へ忘れずに提示するよう従業員へ伝えることも重要です。体調に不安を抱えている場合は、通勤緩和・休憩時間の確保・配置転換・業務量削減・休職など、症状に応じた対応が求められます。

休職を勧める場合は従業員の意向を尊重したうえで、「顔色が悪い日が続いているため、健康維持のためにも少し休養が必要ではないか」と、配慮した発言が求められます。

妊娠中の従業員に対する適切な対応

産休以外にも、母体保護や男女雇用機会均等に関する観点などから、様々な点に目を配らなければなりません。妊娠や出産を理由にした従業員への不当な対応・解雇・望まない部署異動は、法律によって禁止されています。

マタニティハラスメントに該当する行為は従業員の職場復帰を妨げる他、損害賠償案件につながるリスクを秘めているため慎重な対応が必要です。企業にとっても優秀な人材の流出や若手社員の定着率低下を招き、社会的信用も失います。

マタニティハラスメントとは?

女性従業員が妊娠・出産を理由に、職場の同僚や上司から受けるハラスメントを指します。制度利用への妨害や精神的なダメージを負わせる発言など、従業員が不利益を被る全ての行為が対象になります。

マタニティハラスメントが起きると組織内の雰囲気が悪くなり、従業員のモチベーション低下や仕事の作業効率悪化を招きます。最悪の場合は訴訟に発展し「従業員を大切にしない」といった企業イメージが付いてしまいます。

マタニティハラスメントが起きる原因

  • 独身女性からの嫉妬
  • マネジメント層や男性従業員からの理解不足
  • 性別への無意識な思い込みや偏見
  • 職場環境の未整備

マタニティハラスメントの一例

  • 上司に妊娠を報告した場合の退職勧告
  • 妊娠を理由にした閑職への配置転換
  • 通院休暇申請の却下
  • 妊娠を引き合いに出した悪意のある発言

不利益な取り扱いの禁止

妊娠や出産を理由に降格・減給・非正社員への転換など、従業員が不利益を被る扱いは禁止されています(男女雇用機会均等法第9条、育児・介護休業法第10条など)。企業には、出産・育児と仕事を両立できる労働環境の整備が求められています。

具体的には、以下のような行為が不利益な取り扱いとみなされ、禁止となります。

  • 産休の申請を拒絶する
  • 産休を取得した従業員を減給・降格する
  • 正当な理由なく産休明けの復職を拒む

また、独身女性からの暴言・仕事量の大幅な削減・望まない部署への異動など、精神的な嫌がらせやマミートラックが生まれないよう配慮しなければなりません。こうした行為を放置すると、女性従業員の退職を招くだけでなく、パブリックイメージの悪化にもつながります。

妊娠・出産を理由とする解雇の禁止

妊娠・出産を理由にした従業員の解雇は、労働基準法や男女雇用機会均等法によって禁止されています。

(解雇制限)
第十九条 使用者は、(中略)産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、(中略)天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

労働基準法第19条|法令検索 e-Gov

(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
(中略)
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

男女雇用機会均等法第9条|法令検索 e-Gov

原則的に、産休中や産休明け30日間の解雇は、事業継続が不可能となった場合を除いて認められていません。妊娠中や産後1年を経過しない女性従業員についても、「妊娠や出産が解雇理由でない」ことを証明できない限り、解雇は無効とされます。

また、解雇に限らず、契約社員や派遣社員の契約解除・契約内容変更・受け入れ拒否も禁止されています。

労働基準法の保護規定

妊娠中及び産後1年を経過していない女性従業員から請求があった場合は、時間外労働・休日出勤・深夜労働をさせてはいけません。変形労働時間制の対象労働者でも、本人から請求があった場合は1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることはできません。

また、重量物運搬や有害ガスなどを扱う危険業務に就かせることはできず、妊娠中の女性従業員から請求があった場合は、危険業務以外でも他の軽易な業務に転換させなければなりません。

産休中の社会保険料免除

産前休業・産後休業中は所定の手続きを行うことで、社会保険料(厚生年金・健康保険料)が免除されます。この免除は、従業員負担分だけでなく、会社負担分も対象となります。

免除期間は、産前産後休業開始月から終了予定日の翌日の月の前月(産前産後休業終了日が月の末日の場合は産前産後休業終了月)までとなります。具体例を挙げると、産休終了予定日が3/30の場合は2月分まで、3/31の場合は3月分までが免除対象です。

具体的な手続きは、被保険者である従業員からの申出により、健康保険組合と日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」を提出して行います。提出方法は窓口持参・郵送・電子申請から選択できます。

なお、免除されている期間があったとしても、将来受け取る年金額や被保険者資格については影響ありません。

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産休中の賃金保障

産前休業・産後休業中は労働義務が免除となるため、企業側が従業員に賃金を支払う義務も発生しません。その代わり、完全に収入が途絶えることがないよう、公的保険からの保障があります。

出産手当金

出産予定日42日前(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日まで支給されます。産前休業中は会社から従業員へ給与支払いの義務はありません。生活への不安を抱えず安心して出産に臨めるよう、健康保険協会から支給される手当金です。

支給額は1日あたり産前休業前に受け取っていた給与の2/3(約67%)です。出産予定日より遅れた場合でも遅れた分の日数が加算されます。また、健康保険の加入期間が1年以上あり、退職日が産前休業・産後休業中に入っていた場合は、退職後でも出産手当金を受け取れます。

出産手当金をもらえる条件

  • 勤務先の健康保険に加入’(被保険者)
  • 妊娠4か月以降の出産
  • 産休中

退職後にもらえる場合

  • 退職日までに1年以上健康保険に加入
  • 退職日が産前休業か産後休業中の範囲内
  • 退職日に勤務していない
  • 被保険者である

出産育児一時金 ※2023年4月改定

出産に掛かる費用確保や退院時の費用負担軽減のために支給されます。支給額は子ども一人につき42万円(産科医療補償制度対象外での出産は40万8,000円)支給され、多胎児出産の場合は人数分支給されます。

健康保険に加入しており、妊娠4か月以上での出産であれば支給対象となります。妊娠中に退職した場合は夫の所属する健康保険組合から受給できます。

受給条件

  • 本人か配偶者が健康保険又は国民健康保険へ加入
  • 妊娠4か月以上の出産

なお、この出産一時金については、2023年4月から50万円に引き上げられることが決まっています。

妊娠中の従業員にも勤怠管理システムで柔軟に対応

従業員が妊娠した場合は休業や勤務形態の変更など、労務管理上の手続き・処理が発生します。慣れない作業に戸惑い、管理負担増大につながることも珍しくありません。勤怠管理システムを導入すれば、通院休暇による変則的な勤怠や休業手続きなども簡単に管理可能です。

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