コロナ禍などによる中長期的な雇用調整策として注目された在籍出向ですが、制度を後押しする助成金の登場もあり、導入を検討されている事業主の方も多いのではないでしょうか?
この記事では、転籍出向や派遣との違いに触れながら、在籍出向のメリット・デメリット、運用上のポイントについて、わかりやすく解説します。
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在籍出向とは
「出向」とは、グループ企業や提携企業間で交わされる出向契約に基づいて、労働者が出向先企業と新たな雇用契約を結ぶことを言います。
このうち、労働者が出向元企業とも雇用関係を維持し続けるものを「在籍出向」または「在籍型出向」(本記事では「在籍出向」で統一)と呼びます。
出向者は一定期間出向先で勤務し、出向期間終了後は出向元に戻り勤務することになります。出向期間としては、1~3年が一般的です。
近年はコロナ禍などの影響で長期の休業を余儀なくされる企業がある一方で、慢性的な人手不足に悩まされる企業もあり、アンバランスな雇用状態が続いていました。
在籍出向は、こうした企業間で雇用を流動化することにより、人材を有効活用できる手段として注目され、導入が進められています。
転籍出向とどう違う?
転籍出向は、労働者と出向元との雇用契約は終了し、出向先とのみ新たに雇用契約を締結します。
基本的に、労働者が出向元に戻ることはなく、他企業への転職に近い形になります。かりに出向元に戻る場合は、再度雇用契約の締結が必要となります。
派遣とどう違う?
派遣の場合、雇用関係は派遣元との間でのみ継続し、派遣先との間では雇用関係は発生しません。
派遣先は、派遣労働者に対して業務に関する指揮命令権を有することになりますが、基本的に雇用契約に関する事項(賃金や休暇など)には直接関与できません。また、時間外労働に関する36協定も派遣元の協定内容が適用されます。
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在籍出向のメリット
在籍出向のメリットについて、出向元・出向先・労働者それぞれの立場から見ていきましょう。
出向元のメリット
まず、余剰人員を解雇することなく雇用を維持したまま、一時的に出向先へ労働者の就業環境を移せる点がメリットです。転籍出向では、出向従業員は一定の出向期間を終えた後は再び自社に戻るため、貴重な人材の流出を防げます。
また、出向契約の内容にもよりますが、基本的に出向者の給与は出向先が負担することになるため、その間の人件費を削減できるのもメリットでしょう。
出向先のメリット
出向先のメリットは、採用に掛かる手間やコストをかけずに即戦力となる人材を獲得できる点です。本来の採用活動は、求人情報の掲載などに費用をかけ、書類選考や面接などの工程を踏む必要がありますが、在籍出向であればこうした手間やコストを省くことができます。
また、在籍出向をきっかけに出向元との関係強化を図れる点もプラスです。事業提携やワークシェアリングなど、今後のビジネスにいい影響をもたらします。
労働者のメリット
出向労働者のメリットとしては、新たな知識やスキルを習得できる点が挙げられます。別業界・異業種の企業に出向した場合、今までと違った知識やスキルが求められることになります。
慣れるまでに時間は必要ですが、現職とは異なる経験を積めるため、新鮮な気持ちで日々仕事に励めます。新たな知見やスキルの習得もでき、ビジネスマンとしての可能性を拡げられるでしょう。
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在籍出向のデメリット
続いて、在籍出向によるデメリットを、出向元・出向先・労働者の視点で見ていきましょう。
出向元のデメリット
出向元のデメリットは、従業員に大きな負担を強いる点です。グループ会社や子会社ではなく、他企業に従業員を出向させる場合、特に慎重な配慮が必要でしょう。出向先でのストレスで従業員が体調を崩さないよう、メンタルケアや継続的なサポートが必要です。
また、出向先での仕事や労働環境に従業員が魅力を感じた場合、出向先に転籍を望むケースがあります。優秀な人材が流出する形となり、将来的な復帰を見込んでいた企業にとっては痛手となります。
出向先のデメリット
出向先のデメリットは、一時的に優秀な人材を獲得できても、いずれ手放さなければならない点です。在籍出向は数年単位で出向元に戻ることを前提としています。出向してきた従業員が優秀であればあるほど、抜けた穴を埋めるのが難しくなります。
少子高齢化・フリーランス人口の増加・労働者の安定志向などによって、市場で優秀な人材を獲得するのは困難な状況です。在籍出向を利用しつつ、労働力不足解消につながる抜本的な対策を考えないといけません。
労働者のデメリット
出向労働者のデメリットは、慣れない環境や業務内容への適応を強いられる点です。特に現職の仕事に強い愛着を抱いていた場合、在籍出向を告げられるのは大きなショックとなるでしょう。ストレスで体調を崩さないよう、出向元や出向先双方のサポートが重要になります。
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在籍出向導入のポイント
在籍出向を導入する場合に注意すべきポイントとして、以下の2点を解説します。
- 就業規則等の整備または労働者の個別同意が必要
- 出向契約で定めるべき事項の把握
就業規則等の整備または労働者の個別同意が必要
在籍出向を命じるためには、基本的に対象労働者に出向先の情報や労働条件などを説明し、個別に同意を得る必要があります。
ただし、就業規則等に「出向を命ずることがある」旨の規定があり、本規定が従業員に周知されている場合には、個別の同意なくして出向を命じることが可能となります。
とは言え、在籍出向は従業員に大きなストレスを与える可能性があるため、可能な限り事前に説明をしておくのが無難な対応です。
給与や出向期間は?出向契約で定めるべき事項
在籍出向は、出向元と出向先の双方が出向従業員に対して責任を負う形になります。出向に関して直接定めた法律はなく、その内容は出向契約の内容に委ねられます。
基本的に、出向者の雇用上の身分に関することは出向元、労働条件に関することは出向先が責任を負うことになりますが、後々トラブルにならないよう、以下のような事項については、事前にしっかり協議して出向契約に明記しておきましょう。
- 出向期間
- 出向の途中解除及び期間の延長有無
- 転籍の有無
- 職務内容や職位
- 就業時間
- 勤務地
- 休日及び有給休暇
- 各種手当の負担
- 産休・育休及び休職
- 福利厚生の扱い
- 社会保険や労働保険の負担
- 出張費用の負担
- 勤務状況の報告
- 教育訓練
- 安全衛生
- 守秘義務
- 人事考課
- 損害賠償責任の帰属
社会保険や労災保険はどうなる?
社会保険と雇用保険に関しては、基本的には出向元に納付義務がありますが、実際の費用は分担でも差し支えありません。
労災保険については、出向先が納付義務を負うのが原則で、実際の費用は賃金割合に応じて按分することになります。
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在籍出向で利用できる産業雇用安定助成金とは?
産業雇用安定助成金は、新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴う減収で、事業の縮小を余儀なくされた企業が利用できる制度です。在籍型出向を活用して労働者の解雇を回避する場合、出向元と出向先双方に出向で掛かった経費の一部を援助します。
産業雇用安定助成金は、以下の3種類の助成があります。
- 出向初期経費助成
- 出向初期経費助成
- 出向復帰後訓練助成
出向初期経費助成
出向前に、出向の成立に必要な措置(就業規則の整備、教育訓練、受入のための機器の整備など)を行った場合に、以下の額が助成されます。
助成対象 | 助成額 | 加算額 |
---|---|---|
出向元・出向先 | 各10万円/1人あたり | 各5万円/1人あたり |
加算額は、異業種からの受入など一定の要件を満たすことによって、加算対象となります。
手続きとしては、出向元事業主と出向先事業主双方が出向計画届を作成し、出向開始日の前日までに都道府県労働局またはハローワークへ提出します。
出向運営経費助成
出向中に必要な経費(賃金、教育訓練費など)の一部が、最長2年まで助成されます。
助成率 | 中小企業 | 中小企業以外 |
---|---|---|
出向元が労働者の解雇などを行っていない場合 | 9/10 | 3/4 |
出向元が労働者の解雇などを行っている場合 | 4/5 | 2/3 |
企業グループ内出向の場合 | 2/3 | 1/2 |
上限額(出向元・出向先の合計) | 12,000円/日 |
申請手続きについては、出向初期経費助成と共通になります。
出向復帰後訓練助成
出向元事業主のみが対象で、出向から復帰した労働者に対する一定の訓練(off-JT)に要する経費と訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
経費助成 | 賃金助成 | |
---|---|---|
助成内容 | 実費(上限30万) | 1人1時間あたり900円(上限600時間) |
出向元事業主が復帰後訓練計画届を作成し、訓練開始日の前日までに都道府県労働局またはハローワークへ提出します。
在籍出向で柔軟な人材活用を
在籍出向は、外的要因によって人員余剰もしくは人員不足に苦しむ企業にとって、有力な雇用調整策となります。出向元は雇用を維持しつつ、優秀な人材の流出防止や従業員のスキルアップが期待できます。
一方、出向先にとっては採用活動に掛かる手間を掛けず、即戦力の人材を獲得できる点がメリットです。労働者を受け入れるための勤怠管理システム導入も助成金の対象となるため、積極的に活用しましょう。
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