従業員の退職を巡っては、合意形成のプロセスが不十分である場合、退職後に予期せぬトラブルが発生することがあります。そこで重要となってくるのが「退職合意書」の作成です。

退職合意書は、従業員の円満な退職をサポートし、企業が法的トラブルを未然に防ぐための防波堤となる書類であり、退職金の支払い方法や金額、最終出社日、そして退職理由などが記載されます。

しかし、間違った内容で合意書を作成してしまうと、後に訴訟トラブルなどに発展するリスクもあり、企業にとってかえって損害となる可能性があります。

この記事では、退職合意書の各条項の記載方法、作成する際に注意すべきポイントなどについてわかりやすく解説します。無料でダウンロード頂けるテンプレートもご用意しましたので、併せてご活用ください。

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退職合意書とは

退職合意書は、企業と従業員が雇用契約を終了する際に、退職に関する条件や取り決めた書面です。労働基準法などには、退職に関する手続きについて詳細な規定がないため、個別に合意書を作成することで、将来的な労使トラブルを未然に防ぐことができます。

労働契約法第16条で定められている「解雇権濫用法理」に基づき、合理的な理由がない解雇は無効とされますが、退職合意書があることで、労働者が自発的に退職することを証明でき、企業側の法的リスクを軽減します。なお、公序良俗に反する条項は無効とされるため、合意書の内容には注意が必要です。

退職合意書の目的

退職合意書の主な目的としては、以下のような事項が挙げられます。

  • トラブル防止: 退職後のトラブル(未払い賃金、退職金、競業避止義務など)を未然に防ぐ。
  • 退職条件の明確化: 退職日、退職金、退職手続など、退職に関する条件を明確にする。
  • 会社の機密保持: 企業秘密の漏洩を防ぐ。

退職合意書で退職に関する条件を明確にすることで、会社と従業員の間で誤解が生じることを防ぎ、円満な退職が実現します。また、退職後の企業秘密の保護や競業避止義務を明確にすることにも使用されます。

退職合意書により、企業が労働者に対して行うべき義務や、逆に労働者が守るべき事項が明確にされ、退職後の不当な請求や労働トラブルを未然に防止します。

退職合意書と退職届の違い

退職合意書と退職届は、どちらも退職に関連する書類ですが、その性質が大きく異なります。退職届は従業員が一方的に退職の意思を表明するものであり、法的拘束力はありません。

一方で退職合意書は、会社と従業員が退職に関する条件などを双方の合意のもとに定め文書化したものであるため、一定の法的拘束力があります

また、記載内容についても、退職届には一般的に退職の意思表示しか記載されませんが、退職合意書には退職日、退職金、競業避止義務など、さまざまな事項が詳細に記載されます。

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退職合意書のテンプレート

無料でダウンロード頂ける「退職合意書」のテンプレートをご用意しましたので、以下のリンクよりご活用ください。

退職合意書の記載事項

退職合意書には、企業と従業員が退職に際して合意した内容が詳細に記載されます。以下では、退職合意書のテンプレートに沿って、主要な記載事項についてそれぞれ詳しく解説します。

退職の合意及び退職日

第1条 退職の合意及び退職日
甲と乙とは、甲乙間の雇用契約を、令和◯◯◯◯◯◯日付で合意解約した。

退職合意書の中で最も基本的かつ重要な要素の一つは、退職の合意形成と退職日を明確に記載することです。これにより、労使双方が退職の事実を正式に認識し、後日の紛争を防止します。

この合意を示す条項により、企業は退職が一方的な解雇でないことを示すことができ、併せて退職の意思表示の撤回も避けることができます。

退職理由

第2条 離職理由
前条の退職は、[ 会社都合・自己都合 ]の離職として扱い、雇用保険の離職証明書の離職事由は、◯◯で処理するものとする。

退職合意書には、従業員が退職する理由を明記することも重要です。これにより、退職が会社都合によるものか自己都合によるものかを明確に示します。

離職票に記載する退職理由は、自己都合であるか会社都合であるかによって、従業員が退職後に受ける失業給付に直接影響します。具体的には、自己都合退職の場合、失業給付に3ヶ月の給付制限期間が付され、支給期間も会社都合退職と比較して短くなってしまいます。

業務引継ぎ及び最終出社日

第3条 業務引継ぎ及び最終出社日
乙の最終出社日は令和◯◯年◯◯月◯◯日とし、乙は同日まで後任者に対する業務引き継ぎを、甲の指示に従い誠実に行う。
2 乙は甲の承認のもと、令和◯◯年◯◯月◯◯日から退職日までの間、年次有給休暇を取得する。

退職合意書に業務の引き継ぎ方法と最終出社日を記載することで、業務の継続性が保たれ、退職者と企業の間でトラブルが発生するリスクが軽減されます

引き継ぎが滞ると、業務に支障が生じ、会社に損害を与える可能性があるため、退職合意書で引き継ぎ期間や最終出社日を明確にすることが重要です。

また、未消化の年次有給休暇が残っている場合は、退職日までに取得してもらうようにしましょう。その際は、退職日から逆算して有休残日数分遡った日を最終出社日とすると良いでしょう。

退職金

第4条 退職金
甲は乙に対して、退職金規程に基づく退職金として金◯◯円、また別途解決金として、金◯◯円を支払うものとする。
2 前項の金員は、令和◯◯年◯◯月◯◯日限り、必要な法定控除を実施のうえ、乙の指定する銀行口座に振込送金する方法により支払う(振込手数料は甲の負担とする)。

退職金の支給要件を満たす場合は、会社の退職金規程等に基づいてこれを支払うことを明記します。また、会社に何らかの帰責性があり合意退職に至った場合は、後々のトラブルを回避するために、退職金とは別に解決金という名目で会社が金銭を支払うケースも考えられます。

いずれにしても、退職金(解決金)の支払いについては、その金額や支払いのタイミング、支払方法などを退職合意書に明記しておきましょう

なお、退職金名目で支払った場合は、原則「勤続年数(20年が上限)×40万円」まで所得税控除が受けられ、解決金名目で支払った場合は、実質慰謝料と評価されれば非課税となることも、併せて理解しておきましょう。

私物・貸与品

第5条 私物・貸与品
乙は、甲の施設内にある乙の私物を、令和◯◯年◯◯月◯◯日限り、持ち帰るものとし、同日以降、甲の施設内に乙の私物がある場合、その一切の私物について所有権を放棄し、甲が任意の方法により処分することについて一切の異議を述べない。
2 乙は、甲からの貸与物(乙が甲から業務上貸与を受けた制服、社員証、名刺、健康保険証(家族分を含む)、モバイル端末等の貸与物一切)は、すべて令和◯◯年◯◯月◯◯日限り、甲に返却し同日以降一切所持しない。

退職合意書に、退職者が持ち帰る私物や会社に返却すべき貸与品についても明確に記載することにより、退職後に生じる物品に関するトラブルを防止します。貸与品の返却が適切に行われないと、企業にとってセキュリティリスクなどが発生する可能性があります。

また、私物の処理についても事前に合意しておくことで、従業員からの「会社に勝手に処分された」というクレームを避けることができます。なお、規定に基づきやむを得ず私物を処分する場合でも、一定のプライバシーには配慮が必要です。

守秘義務

第6条 守秘義務
乙は、在職中に知り得た、甲が管理している営業上、技術上、財務上、人事上の秘密情報について、退職後にこれを使用せず、またこれを他に開示もしくは漏洩しない。
2 乙は、本合意書の存在及びその内容の一切を厳格に秘密として保持し、その理由の如何を問わず、一切他に開示もしくは漏洩しない。

守秘義務についての記載は、退職合意書に必須といえます。従業員は、在職中に会社の機密情報に触れる機会があり、特に管理職など役職が上がるほど、より機密性の高い情報に接することになります。

この機密情報を退職後に第三者に漏らしてしまうと、会社の信用を失墜させ、損害を与える可能性があります。そのため、退職合意書には守秘義務条項を定め、会社のあらゆる秘密情報を、退職後に外部に漏らさないよう誓約させることが重要です。

清算事項

第7条 清算条項
甲と乙は、本合意書に定める他、何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する。

退職合意書の最後には清算条項を設けて、合意時点で明らかになっている債権債務を明らかにし、労使双方が金銭に関する未解決の問題がないことを確認することで、退職後の不当な金銭請求やトラブルを防止します

なお、合意後に新たに発覚した債権債務については、この条項の適用を受けないため、会社から損害賠償を求めたり、逆に退職後の従業員から未払賃金等を請求される可能性はあります。

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退職合意書の注意ポイント

退職合意書を作成する際には、労使双方が法的リスクを最小限に抑えるために、以下で解説する重要なポイントに注意する必要があります。

清算条項の範囲を明確にする

退職合意書には、清算条項が含まれることが一般的ですが、この条項の範囲を明確にすることが重要です。清算条項では、未払い賃金、残業代、有給休暇の未消化分など、あらゆる経済的な債権債務を明確に記載し、将来的なトラブルを防止する必要があります。

清算条項を退職合意書に明確に記載することで、退職後に労働者から追加の金銭請求を防ぐことができます。

役員が退任する場合の退職合意書

役員が退任する際には、通常の従業員と異なる要素を含めた退職合意書が必要です。役員は企業の経営に直接関わるため、退職後の競業避止義務や秘密保持義務がより厳格に求められることがあります。

また、一般的な従業員との退職合意書に加えて、役員報酬の清算や株式の譲渡など、役員特有の事項を詳細に定める必要があります。

退職合意書と解雇予告手当

退職合意書を締結した場合、原則として解雇予告手当は支払う必要がありません。「解雇予告手当」とは、本来30日前までに必要とされる解雇予告に代えて、または解雇予告と併用して、解雇予告期間を短縮できる手当のことです。

退職合意書は、会社と従業員が合意の上で雇用契約を終了させることを示す書類であり、会社が従業員を一方的に解雇するものではないため、解雇予告手当の支払義務は生じないのです。ただし、強い退職勧奨があった場合には、解雇とみなされる可能性があり、解雇予告手当の支払義務が生じる場合があります。

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退職合意書についてよくある質問

退職合意書について、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。

Q
退職合意書はどんなときに作成する?
Q
退職合意書を作成したら自己都合?会社都合?

退職合意書を作成して円満退職を実現しましょう

退職合意書は、企業と従業員が退職に関する合意を文書化するための重要な書類です。適切に作成することにより、労使間で取り決めた内容が明確にされ、退職後のトラブルを未然に防ぐことができます。

特に、退職勧奨や会社都合の退職においては、退職金や退職理由、最終出社日などの詳細を合意書に含めることで、双方にとって安心できる取り決めとなります。退職合意書は、ただの形式的な書類ではなく、法的リスクを最小限に抑え、円滑な退職手続きを実現するための重要な書類と言えるでしょう。

また、適切な退職合意書を作成することも重要ですが、日々の労務管理を適切に行い、従業員との信頼関係を築いて退職者を減らすことも重要です。そのためには、正確で信頼できる勤怠管理システムの導入が欠かせません。

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