みなし残業(固定残業)制は、残業代を削減できるという勘違いから、誤った運用をされているケースも少なくありません。そのため、制度自体が「違法である」と誤解した従業員から、「みなし残業はおかしい」という不満の声が挙がることもあります。
違法な運用をしないことはもちろんですが、みなし残業は実は労働者にとってもメリットが大きいということをきちんと説明することも重要です。この記事では、みなし残業が違法と言われる原因や、正しく運用するためのポイントについて、わかりやすく解説します。
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みなし残業(固定残業)とは?
労働関連で「みなし労働」というキーワードは、本記事で解説する「みなし残業」と「みなし労働時間制」と制度の、主に2つの意味で使用されています。
みなし残業は、残業代の計算を簡素化する制度
固定残業(みなし残業)代とは、実際の労働時間(残業時間)に関係なく、一定時間残業したものとみなして、残業代を定額支給する制度です。
固定残業(みなし残業)代は、「手当型」と「組込型」の2種類があり、本質は同じですが、雇用契約書などへの記載方法や計算方法が異なります。
手当型とは、基本給に加えて固定残業代を支給する形態(基本給+固定残業代)で、具体的に給与明細には「基本給◯万円、固定残業代◯万円」などと併記して記載します。
組込型は、基本給の中に固定残業代も含めるという形態で、基本給に合わせて固定残業代を支給します。給与明細には「基本給◯万円(◯時間分の固定残業代◯万円を含む)」などと記載します。
みなし労働時間制とは?
みなし労働時間制は、実労働時間に関係なくあらかじめ決められた時間だけ労働したものとみなされる制度です。
みなし労働時間制は、「事業場外労働のみなし労働時間制」と「裁量労働制」に分かれ、さらに裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」があります。
みなし労働時間制は、労働基準法第38条の2などで規定されている制度であり、一定の残業代削減効果が見込めます。労働時間の管理は楽になる一方で、恣意的に運用されるとサービス残業の温床になるおそれもあるため、注意が必要です。
事業場外労働みなし労働時間制
事業場外労働みなし労働時間制とは、外まわりの営業職など事業場外で労働する場合に導入される制度です。
所定労働時間および業務上通常必要とされる時間を、みなし労働時間としてカウントします。
職種や事業場による制限がないため、裁量労働制のように対象業務が制限されていないのが特徴です。
なお、外回りから帰社して行う内勤業務には適用できないため、別に労働時間として管理する必要があります。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、「業務の性質上、遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難な19の業種」に限られています。
対象になる業務としては、研究開発やデザイナーなどがあり、対象者が限定的である一方、導入手続きは企画業務型裁量労働制よりもハードルが低めです。
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、企業全体に影響を及ぼす事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、対象業務に従事する労働者が対象です。
恣意的な運用を防止するため、労使委員会による決議が必要であるなど、導入のハードルが高いのが特徴です。
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みなし残業は本当に違法?「おかしい」と言われないための基礎知識
「みなし労働時間制」が労働基準法で規定されている労働時間制度であるのに対して、みなし残業(固定残業)代は、特に法律に規定されている制度ではありません。そのため、しばしば恣意的な運用・悪用につながる傾向にあります。
実際に、使用者が本来の目的や違法性を理解せず導入・運用されているケースが多く、労働者がマイナスのイメージを抱く大きな要因となっています。「残業に見合う残業代が支払われていない」として、労使間でトラブルに発展するケースも見受けられます。
みなし残業も労働基準法の適用を受ける
みなし残業代についての直接的な法文上の規定がないということは「制限なく会社都合で自由に運営できる」ということではありません。
むしろ、労働基準法の賃金に関する規定が原則どおり適用されることを意味しており、法定時間外労働に対する割増賃金、時間外労働の上限、最低賃金など、何一つ免れるものではありません。
時間外労働に対する割増賃金
みなし残業時間より実残業時間が超過したり、深夜に労働が発生したりした場合は、労働基準法に基づいた割増賃金を支払わなければなりません。
- 時間外労働
- 法定労働時間(1日8時間・週40時間)超過の場合:25%以上の割増賃金
- 時間外労働が月60時間を超過の場合:50%以上の割増賃金(中小企業については2023年4月1日から適用)
- 休日出勤(法定休日に労働させた場合):35%以上の割増賃金
- 深夜勤務(22時から翌5時の間で労働させた場合):25%以上の割増賃金
36協定の上限
法定時間外労働が必要な場合は、36協定を締結・届出しなければなりません。また、36協定が締結されていても、時間外労働の上限は原則的に月45時間・年360時間です。
最低賃金
基本給、みなし残業代ともに最低賃金を下回ることは認められません。
毎年1回、都道府県別に最低賃金(最低賃金時間額)が改定されています。使用者は、労働者に対してこの最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
みなし残業は労働者のメリットも大きい
みなし残業代は、適切に運用されていれば、使用者よりも労働者のメリットが大きい制度です。
労働者にとってのメリットとしては、毎月決まった残業代を含めた給与が支給されるため、安定的な収入が見込める点が挙げられます。
また、自分の業務を効率よくこなして所定労働時間どおりに終わらせようと、業務に対するモチベーションがアップし、生産性が向上する点は労使双方にとってのメリットと言えます。
みなし残業には残業代削減効果なし
最も典型的な誤解と言えますが、みなし残業代には、直接残業代を削減する効果はありません。みなし残業代を採用している場合、実残業時間がみなし残業時間を下回っても、定額の残業代を全額支給する必要があり、不足分の減額はできません。
一方で、実残業時間がみなし残業時間を超過した場合は、追加で残業代精算が必要です。もし無駄な残業代が発生しており、削減を考えているのであれば、変形労働時間制など他の制度の導入を検討したほうが無難です。
なお、違法性を認識しつつ「残業代が削減できます」と、みなし残業代の悪用を勧めてくる悪徳弁護士や社労士が存在するため、くれぐれも話に乗らないよう注意してください。
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みなし残業が違法となるケース
みなし残業代をめぐる労使間のトラブルはたくさんあり、過去の裁判でも多数の係争事例があります。企業サイドが以下に挙げるような誤った運用をしているケースでは、違法性を指摘される可能性が高いため、注意が必要です。
みなし残業時間分の残業を強要する
みなし残業時間は、「理由もなく残業命令できる時間」ではありません。みなし残業代は、あくまでも一定時間残業したものとみなして残業代を支払う制度であって、労働者は必ずみなし残業時間分の残業をしなければならない、という義務はありません。
業務上特に必要がないにもかかわらず、みなし残業時間があるという理由だけで残業命令は出せません。
基本給とみなし残業代の区分があいまい
「給与は月30万円とする(みなし残業代を含む)」のような規定は、違法であり無効とされます。
具体的には、「みなし残業時間は何時間か」「みなし残業代はいくらか」の両方が、賃金規程や労働条件通知書に明記されていなければなりません。
「月給◯万円(◯時間分の固定残業代◯万円を含む)」のように、みなし残業時間とみなし残業代両方の明記が必要です。
「月給◯万円(◯時間分の固定残業代を含む)」ではみなし残業代の記載がなく、また「月給◯万円(固定残業代◯万円を含む)」では、みなし残業時間の明記がないため認められません。
また、みなし残業代に深夜割増賃金や休日割増賃金を含む場合は、これらの内訳も全て明記する必要があります。なお、求人の際には「みなし残業時間」「みなし残業代」に加えて、「超過した場合は追加で割増賃金を支給する」旨を明記しなければなりません。
残業の対価として支払われていない
みなし残業を導入する際の要件として、前述の「明確に区分して記載する」以外に、残業の対価として支払われている点に関して明確にする必要があります。
また、残業の対価として、会社と労働者間で合意されているかどうかも重要になります。たとえば、営業手当などの名目だけで残業代を支給しているケースでは、実質「残業代」と認められない可能性が高くなります。
手当の名称いかんを問わず、会社が各種手当を残業代と主張するためには、「手当がみなし残業代を含むこと」「みなし残業何時間に対していくら支給するか」「超過した場合は追加支給すること」などを就業規則等に明記する必要があります。
労働者を採用する際には、みなし残業代分が基本給や各種手当に含まれている点を説明し、会社と労働者間で合意を示す同意書の取り付けておくのが無難です。
みなし残業時間が月45時間の上限を超えている
36協定を締結している場合(特別条項なしの場合)でも、時間外労働の上限は月45時間・年360時間と規定されています。
たとえば、みなし残業時間を月40時間とした場合、年間では480時間の時間外労働(40時間×12ヶ月)になり、年360時間の上限を超過している状態です。特別条項なしでこのように設定している場合は、最初からみなし残業代が無効とされるおそれがあります。
また、特別条項を設けていても、月に45時間を超えることができるのは年に6回までであるため、45時間を超えるみなし残業時間の設定はどちらにしても無効となります。
最終的な違法性は実労働時間で判断するため、設定してあるだけで罰金が課せられるようなことはありませんが、年間上限の360時間を超えない範囲(月30時間まで)に抑えるのが無難です。
超過分を追加で支払っていない
みなし残業時間を超過した時間外労働の分はもちろんのこと、深夜労働や休日労働が発生した場合は、別途割増賃金の支給が必要です。
みなし残業代は、あくまでもみなし残業時間までは残業代の額を固定しているだけであるため、実残業時間がみなし残業時間を超える場合は、当然追加の残業代を支払わなければなりません。
また、深夜労働や休日労働に対する残業代が、明確に固定残業代に含まれていない場合は、別途割増賃金を支払わなければなりません。
最低賃金を下回っている
特に組込型みなし残業代の場合、みなし残業代の比率を高くし過ぎると、基本給を時給換算したときに最低賃金を下回る可能性があります。
基本給から時給換算した時間給が、都道府県で定められた最低賃金よりも低い場合は最低賃金法違反となります。
たとえば「支給総額月20万円(みなし残業30時間分の7万円を含む)」と設定した場合、基本給は差額の13万円となります。
月平均法定労働時間を160時間とした場合、130000÷160=812.5円となり、最低賃金(現在の全国最低賃金の最も低い額が820円)を下回ることになります。組込型の場合は、基本給の固定残業代のバランスに注意が必要です。
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みなし残業は「違法じゃない」と言えるよう、正しく運用しましょう
みなし残業代は、残業代削減に直結しないばかりか、メリットや趣旨をきちんと説明できないと、労働者に無用な警戒心・猜疑心を与えかねません。
残業代削減やサービス残業の目的で導入するのは厳禁であり、コスト削減目的であれば変形労働時間制やフレックスタイム制の導入を検討すべきでしょう。
労働者の理解を得られるようであればみなし残業の導入も問題ありませんが、その際のみなし残業時間の設定や実残業時間の管理には勤怠管理システムが不可欠です。みなし残業代が違法な運用とならないためにも、勤怠管理システム導入をおすすめします。
また、リバティ・ベル法律事務所が運営する身近な法律情報誌リーガレットというサイトでみなし残業代(固定残業代)の判例なども解説されていますので、こちらも参考にしてみてください。
みなし残業(固定残業代)が違法となる5つのケースと重要判例3選|リーガレット (legalet.net)
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