労使協定とは、労働者と使用者間の約束事を記載した書面のことで、法定外残業を命じる際に必要な「36協定」は、労使協定の一種になります。

労使協定は全部で15種類が規定されていますが、それぞれ書式や届出が必要かどうかが異なります。この記事では、それぞれの労使協定についての内容や届出について、わかりやすく解説します。

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労使協定とは

労使協定は、労働者と使用者間の協議妥結内容を記載した書面です。労使協定には、使用者に課せられた義務や禁止事項を免責する効果があります。

労使協定は全部で15種類存在しますが、「届出をして初めて有効とみなされる労使協定」「届出が義務付けられている労使協定」「締結のみで届出は不要な労使協定」の、大きく3つに分類できます。

届出が効力要件時間外労働・休日労働に関する労使協定(36協定)
届出が必要貯蓄金管理に関する労使協定
1ヶ月単位の変形労働時間制に関する労使協定
1年単位の変形労働時間制に関する労使協定
1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する労使協定
事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定
専門業務型裁量労働制に関する労使協定
届出が不要賃金控除に関する労使協定
フレックスタイム制に関する労使協定
休憩一斉付与の適用除外に関する労使協定
年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定
年次有給休暇の時間単位付与に関する労使協定
年次有給休暇の標準報酬日額による賃金算定に関する労使協定
代替休暇に関する労使協定
育児・介護休業の適用除外に関する労使協定
労使協定の種類と届出

届出は、事業場を管轄する労働基準監督署長宛に「協定届」を提出して行います。「協定書」そのものは、公的書類ではないため書式は任意ですが、「協定届」は所定の様式に従って作成する必要があり、協定書のみを届け出ても受理されないため、注意が必要です。

本社一括届が可能な労使協定

事業所が複数ある場合、労使協定は各事業場ごとに届け出るのが原則ですが、以下の労使協定については、電子申請かつ内容が同一であることを条件に、本社において各事業場の協定届を一括して本社を管轄する労働基準監督署に届け出ることが可能です。

労使協定の本社一括届は、従来は36協定のみ認められていましたが、令和6年2月23日より対象が拡大されています。

  • 36協定
  • 1か月単位の変形労働時間制に関する協定
  • 1週間単位の変形労働時間制に関する協定
  • 事業場外労働に関するみなし労働時間制関する協定
  • 専門業務型裁量労働制に関する協定

届出して初めて有効となる労使協定は「36協定」のみ

36協定は、正式には「時間外労働及び休日労働に関する労使協定」と言い、この36協定を締結・届出した上で就業規則に規定して初めて、従業員に時間外労働や休日出勤を命じることが可能となります。

「36協定」届出のない状態で法定外残業や休日労働を命じることは、違法であるばかりか、そもそも無効な業務命令とされます。なお「36協定届」は、2020年、2021年と立て続けに様式が新しくなっているため、誤って旧様式を使用しないよう注意しましょう。

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届出が義務とされている労使協定

以下7つの労使協定は、締結後に管轄労働基準監督署への届出が義務付けられています。ただし、36協定と異なり、届出を怠った場合は労働基準法違反として罰則対象とはなるものの、協定書の効力自体に影響はありません。

  • 貯蓄金管理に関する労使協定
  • 1ヶ月単位の変形労働時間制に関する労使協定
  • 1年単位の変形労働時間制に関する労使協定
  • 1週間単位の変形労働時間制に関する労使協定
  • 事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定
  • 専門業務型裁量労働制に関する労使協定
  • 専門業務型裁量労働制に関する労使協定

貯蓄金管理に関する労使協定

労働契約に付随して、労働者に貯蓄の契約または貯蓄金の管理契約をさせる「強制貯金」は禁止されています。

(強制貯金)
第十八条 使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
② 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。
(以下略)

労働基準法第18条|法令検索 e-Gov

ただし、労働者から委託を受けて貯蓄金の管理をする「任意貯金」は、労使協定を届け出ることによって可能となります。また、任意貯金には「社内預金」と「通帳保管」の2種類があり、社内預金を行う場合は最低でも年5厘の利子をつけなくてはなりません。

書式リンク >>貯蓄金管理協定届

1ヶ月単位の変形労働時間制に関する労使協定

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1か月以内の期間内で繁忙に応じて所定労働時間を調整できる制度です。1ヶ月単位の変形労働制を導入するためには、労使協定の締結・届出または就業規則等への記載が必要です。

第三十二条の二 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時えいでき間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
② 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

労働基準法第32条の2|法令検索 e-Gov

つまり、労使協定にて定めた場合は協定届、就業規則等にて定めた場合は就業規則変更届が必要ということになります。

書式リンク >>1箇月単位の変形労働時間制に関する協定届

1年単位の変形労働時間制に関する労使協定

1年単位の変形労働時間制は、1ヶ月を超え1年以内の期間内で所定労働時間を調整できる制度です。1年単位の変形労働制を導入するためには、労使協定の締結・届出が必要となります。

第三十二条の四 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、第三十二条の規定にかかわらず、その協定で第二号の対象期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において、当該協定(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるところにより、特定された週において同条第一項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
一 この条の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
二 対象期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、一箇月を超え一年以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)
(中略)
④ 第三十二条の二第二項の規定は、第一項の協定について準用する。

労働基準法第32条の4|法令検索 e-Gov

「1ヶ月単位」の変形労働時間制と異なり、労使協定の締結・届出が必須である点に注意が必要です。

書式リンク >>1年単位の変形労働時間制に関する協定届

1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する労使協定

1週間単位の非定型的変形労働時間制は、1周間単位で日々の労働時間を柔軟に変更できる制度です。1週間単位の変形労働制を導入するためには、労使協定の締結・届出が必要となります。

第三十二条の五 使用者は、日ごとの業務に著しい繁閑の差が生ずることが多く、かつ、これを予測した上で就業規則その他これに準ずるものにより各日の労働時間を特定することが困難であると認められる厚生労働省令で定める事業であつて、常時使用する労働者の数が厚生労働省令で定める数未満のものに従事する労働者については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、第三十二条第二項の規定にかかわらず、一日について十時間まで労働させることができる。
(中略)
③ 第三十二条の二第二項の規定は、第一項の協定について準用する。

労働基準法第32条の5|法令検索 e-Gov

なお、この制度は、規模30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店に限って導入が可能です。

書式リンク >>1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届

事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定

みなし労働時間制は、実労働時間にかかわらず事前に決めておいた労働時間を働いたとみなす制度です。みなし労働時間には、事業場外労働みなし労働時間制と事項で解説する裁量労働制の2種類があります。

事業場外のみなし労働時間制は、外回りの営業やツアーガイドなど、事業場外の労働につき労働時間の算定が難しい場合は、所定労働時間分の労働があったとみなす制度です。

第三十八条の二 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
② 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
③ 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

労働基準法第38条の2|法令検索 e-Gov

さらに、当該業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合、当該業務の遂行に必要な時間分の労働があったとみなされ、この「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」は、労使協定に定めた上で届け出る必要があります。

よって、事業場外のみなし労働時間制を採用している場合でも、所定労働時間分労働したものとみなせる場合は、労使協定は不要ということになります。

書式リンク >>事業場外労働に関する協定届

専門業務型裁量労働制に関する労使協定

裁量労働制はみなし労働時間制の1つで、実労働時間にかかわらず予め労使間で定めたみなし労働時間分を働いたとみなす制度です。

裁量労働制には、専門業務型と企画業務型の2種類があり、専門業務型裁量労働制を導入するためには、労使協定の締結・届出が必要です。

第三十八条の三 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす。
一 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。)
二 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
(中略)
② 前条第三項の規定は、前項の協定について準用する。

労働基準法第38条の3|法令検索 e-Gov

なお、企画業務型裁量労働制の場合は、労使協定ではなく労使委員会の決議及び決議届が必要で、専門業務型よりも要件が厳しくなっています。

書式リンク >>専門業務型裁量労働制に関する協定届

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締結のみで届出不要な労使協定

以下7つの労使協定は、締結が義務付けられているものの、労働基準監督署への届出は不要とされています。

  • 賃金控除に関する労使協定
  • フレックスタイム制に関する労使協定
  • 休憩一斉付与の適用除外に関する労使協定
  • 年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定
  • 年次有給休暇の標準報酬日額による賃金算定に関する労使協定
  • 代替休暇に関する労使協定
  • 育児・介護休業の適用除外に関する労使協定

賃金控除に関する労使協定

法定控除以外に、賃金の一部を控除して支払う場合は労使協定の締結が必要です。

(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

労働基準法第24条1こう|法令検索 e-Gov

法定控除とは、所得税の源泉徴収や社会保険料などを指し、法定控除以外の控除としては社宅費、食事代、互助会費などが該当します。

フレックスタイム制に関する労使協定

フレックスタイム制は、労働者が始業時間と終業時間を自ら設定できる制度で、導入するためには、労使協定の締結が必要です。労使協定で定めるべき事項は、以下のとおりです。

  • 対象労働者の範囲
  • 清算期間(フレックスタイム制の対象期間)
  • 清算期間における総労働時間
  • 1日の標準労働時間
  • コアタイムとフレキシブルタイム(任意)

なお、コアタイムとは必ず出勤しなければならない時間帯、フレキシブルタイムとは労働者が自由に設定できる時間帯を指し、コアタイムを設けるかどうかは任意とされています。

休憩一斉付与の適用除外に関する労使協定

休憩時間は「事業場の全労働者に一斉に与えなければならない」という原則があり、業務の都合上、この一斉付与の原則を適用を除外するためには、労使協定の締結が必要です。

ただし、運送、販売、病院など、一斉休憩を適用するとかえって一般社会に不便や混乱を与える業種と、同一空間での一斉休憩が困難な坑内労働者については、労使協定の締結なしで一斉付与の原則の適用外となっています。

なお、休憩時間には「一斉付与の原則」以外にも「途中付与の原則」「自由利用の原則」という原則がありますが、ほかの2つの原則については、労使協定の締結による免責は認められていません。

年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定

年次有給休暇のうち、年5日を超える部分については、労使協定を締結することで計画的付与とすることが可能で、計画年休とも呼ばれます。「5日を超える部分」というのは要するに、最低5日は労働者が自由に取得できる日を残しておく必要があるということです。

計画年休には、事業場全体で同じ日に取得する一斉付与方式、部署やグループ単位で取得する交代制付与方式、計画表に基づく個人別付与方式の3方式があります。

2019年4月から、年10日以上の有休を付与された労働者につき、5日以上の取得が義務づけられたことを受け、この計画年休が取得義務達成への有効な手段として注目されています。

年次有給休暇の時間単位付与に関する労使協定

年次有給休暇は、労使協定を締結し就業規則等に定めることで、年5日の範囲内で時間単位での取得が可能となります。労使協定で定める事項は、以下のとおりです。

  • 対象労働者の範囲
  • 日数
  • 1日分の時間数
  • 単位を1時間以外とした場合の時間数

年次有給休暇の標準報酬日額による賃金算定に関する労使協定

年次有給休暇取得した際に支給する1日分の賃金の計算方法には、「所定労働時間で労働した場合に支払われる通常の賃金」「平均賃金」「標準報酬日額」の3種類があります。

このうち、「標準報酬日額」を採用する場合は、労使協定の締結が必要となります。標準報酬日額は、社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額を30で割った額であり、実際の賃金より低くなるケースが多いため、労使協定の締結が義務付けられています。

代替休暇に関する労使協定

36協定の締結・届出を前提として、1ヶ月の法定時間外労働が60時間を超えた場合は、その超えた部分については50%以上の割増賃金の支払いが必要となります。

ただし、労使協定を締結しており、かつ対象労働者が請求した場合には、この50%以上の割増賃金の支払いに替えて、休暇を与えることも認められており、これを「代替休暇」と呼びます。

2023年4月からは中小企業にも、月60時間超の法定時間外労働に対する割増賃金及び代替休暇が適用されることになっています。

なお、似た名称の「振替休日」や「代休」とはまったく別の制度であるため、混同しないよう注意しましょう。

育児・介護休業の適用除外に関する労使協定

以下に該当する労働者については、労使協定の締結により、育児休業及び介護休業の対象外とすることが可能です。

  1. 継続雇用期間が1年未満の労働者
  2. 申請日から1年以内に雇用期間が終了することが明らかな労働者
  3. 所定労働日数が週2日以下の労働者

なお、1.に該当する有期契約労働者については、以前は最初から対象外とされていましたが、2022年4月の改正育児・介護休業法施行により、労使協定で適用除外としない限り取得可能となりました。

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労使協定にも勤怠管理システムを活用

36協定に代表されるように、労使協定は勤怠管理と密接に関わる内容です。労使協定の内容を遵守し、正しく運用するためにも勤怠管理システムの導入が重要です。

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